2018/11/06 13:50
20世紀を代表するフランスの作曲家、オリヴィエ・メシアン(1908-1992)のオペラ『アッシジの聖フランチェスコ』(1975-1983)は、1983年、パリ・オペラ座で小澤征爾が世界初演を行った作品だが、わが国では、これまで部分的にしか演奏されてこなかった。
この4枚組は、昨年2017年の11月19日と26日にサントリーホールで行われた読響創立55周年記念の東京公演における、演奏会形式による全曲演奏を収録したものだ。
この曲の規模はすさまじい。オンドマルトノ3台、40種ほどを揃えた打楽器を含むオケの総勢は約120名、加えて9人のソロ歌手と10パートからなる混声合唱を加えると、演奏者たちはおよそ240名を数える。この巨大編成に加え、3幕8景からなる全曲演奏には、4時間半を要する。
題材は、フランツ・リストのピアノ曲『伝説』(1861-1863)第1曲や、ロベルト・ロッセリーニの『神の道化師、フランチェスコ』(1950)、フランコ・ゼフィレッリの『ブラザーサン・シスタームーン』(1972)といった映画の題材ともなったアッシジの聖フランチェスコ(1182-1226)。裕福な商家に生まれながら、その恵まれた境遇を捨てて清貧の修道士として生涯をまっとうした、イタリアの守護聖人である。
このオペラを過去に24回もとりあげた、という演奏キャリアを誇り、作品の隅々まで熟知しているカンブルランほどの適任者もいなかったろう。加えて、カンブルランは、常任指揮者を務める読響と、既に『トゥーランガリラ交響曲』や『彼方の閃光』のような大規模作品を含むメシアン作品の演奏経験を積んできた。従ってこのコンビは、メシアンをいまわが国で聴くにあたって、理想的な組み合わせだと言えるだろう。
巨大編成ゆえ、トゥッティではすさまじい音圧の壮大さで聴き手を圧し去るのだが、カンブルランの基本線は、精密なアンサンブルが生み出す一体感の、緊張感ある持続である。メシアンらしい複雑なリズムも、難なく、と言いたくなるほど見事に処理してゆく読響の演奏能力の高さにも驚かされる。
この作品には、小鳥に説教をしたという有名なエピソードに繋がれる、メシアン作品には欠かせない鳥のさえずりもあちこちでさんざめく。鳥に限らず、風音はじめとする自然界のさまざまな音も織り交ぜる。カンブルランたちは、そうした場面を丁寧に磨き上げては折り重ね、神の被造物すべてを兄弟姉妹として捉えたフランチェスコの、万物兄弟の思想へと我々をいざなう。
フランチェスコ役のル・テクシエの確信と慈愛に満ちた穏やかさ、澄みきった、天使役のバラートを筆頭に、ソロを取る歌手たちも素晴らしいし、合唱も清澄さと迫力を兼ね備えている。
メシアン畢生の大作を取り上げ、世の話題をさらった、まこと歴史的なこの演奏会に、録音という形で、であれ立ち会わせてくれることに深く感謝したくなる、そんなディスクである。Text:川田朔也
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