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2018/09/25

『イリデセンス』ブロックハンプトン(Album Review)

 自身(ら)を“新世代アメリカン・ボーイバンド”と謳うブロックハンプトン。はじめは違和感を覚えたが、リーダー/プロデューサーのケビン・アブストラクトがコメントした「ジャスティン・ビーバーやワンダイレクションともひとまとめにされたいし、(ラッパーの)リル・ウージー・ヴァートと一緒に名前が上がって欲しい」という、グループのコンセプトみたいなものを聞いて、何となくその理由が分かった気がした。

 ジャンルにとらわれない音楽スタイル。それでいて、(当然だが)売れ線の安っぽいポップ・バンドとはまったく違う。正直、彼らのことはあまり知らなかったが、アルバムを聴いていくうちに、その魅力にとりつかれてしまった。アメリカの音楽メディア、ピッチフォークが 、“ウエスト・コーストのウータン・クラン” と絶賛するのも納得。ちょっとニュアンスは違うような気もするが……(?)。

 グループは、ケヴィンがカニエ・ウェストのファンサイト“KanyeToThe”でメンバーを募集し、掲示板で知り合ったとのこと。ミュージシャンのみならず、フォトグラファーやグラフィック・デザイナー、DJなど、個性豊かな10人以上のメンバーで構成されている。彼ら独自の世界観、そして質の高い作品が生み出されたのは、それぞれが楽しんで、開放的に仕事をしたからだろう。メンバーだけで、広告やドキュメンタリー番組まで作っちゃうっていうから凄い。これからは、そういう時代になっていくのかな。

 本作『イリデセンス』 は、昨年12月に発表した3rdアルバム『サチュレーションIII』から1年経たずしてリリースされた、レーベル<RCA Records>移籍後初のアルバム。その『サチュレーションIII』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で最高15位をマークし、R&B/ヒップホップ・チャートでは6位にランクインするスマッシュヒットを記録。音楽情報サイト、ステレオガムでは“2017年ベスト・アルバム”の11位に選ばれ、評論家~リスナーも大絶賛の傑作だった。本作も、間違いなく高い評価を得るだろう。

 レコーディングは、英ロンドンの<アビー・ロード・スタジオ>で行われ、ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ』(1967年)にインスピレーションを受けたと、ケヴィンは話している。「どのあたりが?」と言われると難しいところではあるが、バンドのイメージを払拭した実験作、サイケデリックなサウンド、などが当てはまるのではないか、と……。

 冒頭の「ニュー・オリンズ」では、ウィル・スミスの息子で俳優/ミュージシャンのジェイデン・スミスが、ボーカルを担当している。90年代っぽい懐かしいサウンドに、思わずニヤリとする人もいるだろう。間髪入れず、次曲の「サグ・ライフ」へ。この曲は、英ロンドンのゴスペル・コーラス・グループ=ロンドン・コミュニティ・ゴスペル・クワイアがフィーチャーされたメロウ・チューンで、(個人的には)本作の目玉ともいえる傑作。2分弱で終わってしまうのが、本当にもったいないくらい、いい曲。

 ちょっとサイケな「ベルリン」、レゲエっぽいリズムの「サムシング・アバウト・ヒム」と、3曲ユルいタイトルが続き、一転してハードコアな「ホウェアー・ザ・キャッシュ・アット」で打ちのめす。この“裏切られた感”も、何だか心地良い。ゴスペルのコーラスからブレイクビーツに移行する「ウエイト」、トラップ風の「ディストリクト」、カニエっぽい「テープ」、全編サーモグラフィのミュージック・ビデオが話題となった先行トラック「ジュヴェ」、ビョンセの4thアルバム『4』(2011年)に収録された「ダンス・フォー・ユー」をサンプリングした「ハニー」。ひと息つく間もなく、分刻みで音が目まぐるしく変化していく。

 ラスト3曲の流れが、特にいい。夏の終わりを感じさせるチルアウト・ソング「サン・マルコス」、ジャジーなピアノのイントロではじまるイースト・コースト・ヒップホップ「トーニャ」、そしてアルバムのラストを飾るプロジェクトの集大成的な「ファブリック」。好き嫌いは別として、捨て曲が一切ないアルバムといっていいほど、記憶に留めておきたい作品。

 ケヴィンといえば、ラッパーとしては異例の「カミングアウト」も話題となったが、彼の作る音楽って、あまりそういう要素というか、嗜好を感じられない。きっと、「ゲイっぽい」とかそういう表現がなくなるようになる、まさに先駆者なんじゃないかな。でも、彼の母親は「ゲイが嫌い」だっていうから、なんだか複雑……。


Text: 本家 一成

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