2018/09/29
J-MELOは、とても視聴者からのリアクションが厚い番組だった。
番組が開始した00年代半ば、日本のポピュラー音楽に接触する最大の機会は「アニソン」だった。アニソンは言うまでもなく、アニメが「主」であるのに対する「従」の存在である。アニメは世界各国に番組販売され、本編のほとんどは現地の声優に吹き替えされた。しかし、「うた」は吹き替えが効かない。主題歌の場合、標準13回に渡るワンクールで「1分30秒」という長さで繰り返される。「アニソン」は、世界中の愛好者に口ずさまれるようになった。「アニソンは世界で人気」という声を聞く。それは決してポジティブな理由ではない。主にアニソンしか、日本音楽に接触する機会がなかったのだ。
J-MELOの主たる視聴者は、アニソンを入り口として、日本の音楽を知った人々だった。私は、彼らの思いをより深く聞きたいと考え、「J-MELOリサーチ(https://goo.gl/LFhJCE)」という調査を企図した。協力して頂いたのは、東京藝術大学の毛利嘉孝教授と、日高良祐さん(現・首都大学東京助教)、高橋聡太さん(現・福岡女学院大講師)を中心とした研究室のメンバーだ。
2010年の開始時、毛利さんは率直な懸念を吐露した。「何のインセンティブもなく、本当にアンケートが可能なのでしょうか?」。杞憂となる確信が私にはあった。初年度、70の国と地域から728の返答を得た。それからも調査への協力は増え続け、2013年には95の国と地域から1300以上の回答が届いた。定点観測を行った、象徴的な質問がある。「音楽以外の日本文化で興味があることを挙げてください」というものだ。端緒から継続して首位を獲得しているのは「アニメ」だ。視聴者は、日本のポップカルチャーというフロンティアの発見者だったのだ。
分水嶺は、2015年に訪れた。回答数がピークアウトしたのだ。同じくして、番組へのリクエストも減少を辿った。鍵は、YouTubeをはじめとする映像配信の増加と、サブスクリプション(聴き放題)サービスの普及にある。「y軸=垂直方向」から「x軸=水平方向」へのビジネスモデルの遷移が、国際放送が日本音楽を知るための数少ない命綱だった時代に幕を引いた。J-MELOリサーチへの返答は、昨年、200あまりにまで減少した。歴史的使命を終えたと感じた。
私は、研究員を務める慶大アート・センターで「ポップ・ジャパン・プロジェクト(PPJP)」という新機軸を提案した。そのキックオフイベントとなるシンポジウムを、10月4日に開催する。10年代で得られた知見を、来るべき20年代へと繋げるためだ。ここで、若い研究者らと共に、J-MELOリサーチの総括をする予定だ。熱意を持って思いを伝えてくれた世界中の視聴者への恩返しでもある。未来の音楽の可能性が見えてくる、そんな場にできればと考えている。
◎イベント情報
慶應義塾大学アート・センター所属研究会 mandala-musica主催
【Pop Japan Project 「メディアの現状と音楽発信」】
2018年10月4日(木) 18時~20時45分
慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール (入場無料・事前申込不要)
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