2018/09/11 18:00
デビュー作『レット・ラヴ・ルール』(1989年)のリリースから29年。来年でデビュー30周年を迎えるベテラン・シンガー=レニー・クラヴィッツを、ロック・シンガーというべきか、R&B/ソウル・シンガーというべきか。アルバム毎に色は異なり、リスナーの受け取り方も様々で、ジャンルでひとくくりにすることはできない。本作『レイズ・ヴァイブレーション』もまさにそうで、どちらかといえばロック寄りではあるが、ファンクやブルース、70年代ソウルからヒップホップまで取り入れた、多様な音楽スタイルの作品に仕上がっている。制作は、レニーの作品ではおなじみのギタリスト=グレイグ・ロスとの共作。
5月には先行シングル2曲をリリース。1曲目の「イッツ・イナフ」は、政治問題や人種差別などについて歌われた、8分弱の大作。途中、ラップのような語りも組み込んだメッセージをレゲエ調のサウンドに乗せ、強く深く歌う。レニー・クラヴィッツというアーティストをあらためて「偉大」だと、この曲を聴いて感じた方も多いのではないだろうか。横揺れのファンク・グルーヴに、マイケル張りのシャウトが炸裂するもう1曲のシングル「ロウ」も最高。根っからのファンも納得させるだけの力を持つ、本作の目玉ともいえる1曲だ。本人曰く、クインシー・ジョーンズ的作品だとか……(たしかに「オフ・ザ・ウォール」っぽい気もする)。
2曲目に収録されたその「ロウ」 含め、オープニングの「ウィー・キャン・ゲット・イット・オール・トゥゲザー」から、間奏のギターリフが男臭を放つ「フー・リアリー・アー・ザ・モンスターズ」、自らのルーツを見つめ直したようなパワフルなタイトル曲「レイズ・ヴァイブレーション」と、冒頭4曲ロック・チューンが続く。5曲目で一転。ミディアム・スロウの「ジョニー・キャッシュ」は、タイトルが示す通り、2003年に死去したロカビリー・シンガーのジョニー・キャッシュとの体験談について歌われたもの。 ジョニーの音楽ルーツにちなんで、カントリーとサイケデリック・ファンクが融合した作品だと話している。
ピアノとストリングスの奏が美しいバラード曲「ヒア・トゥー・ラブ」、思わず腰が浮くディスコ・ファンク「ファイブ・モア・デイズ・ティル・サマー」、80年後期~90年前期のゴールデンエイジ・ヒップホップ風味の「ザ・マジェスティー・オブ・ラブ」、アカペラのコーラスで幕を開けるブルージーな「ゴールド・ダスト」、風通しの良いフォーク・ソング「ライド」、黒人らしさを強調したオルタナティブR&B~ネオソウルの「アイル・オールウェイズ・ビー・イン・ユア」……と、アルバム後半は1曲1曲、曲調が目まぐるしく変化していく。とはいえ、乱雑に詰め込んだという印象はなく、作品としてきちんと統一されている。
楽曲制作・プロデュース、ボーカルのみならず、ほとんどの楽器を自ら演奏していることもレニー・クラヴィッツと本作の凄さ。その実力が如何なものかは今さら何をといったところだが、テクニカル面よりも、エモーショナルなプレイにグっとくる。それは、3年前のワールド・ツアー後に悩まされたスランプを乗り越えたからこそ醸し出せるものなのだろう。 音は丁寧な作りだが、若い頃の荒っぽいところもあり、オタクっぽい要素も満載。ファンが待ってたアルバムは、まさにこういうものだったと断言できる。本人も、「これだ!」と確信して完成したものだと宣言しているしね。
前作『ストラット』(2014年) からおよそ4年振り、通算11枚目となるスタジオ・アルバム『レイズ・ヴァイブレーション』。タイトルが示す通り、ヴァイブレーションを高め、新しい流れを作った傑作だ。生真面目さ、完璧主義者、音楽性の追求。過去のアルバムでは、それがマイナスに働いてしまったこともあったが、本作では彼の音楽に対するこだわりが良い方向に向き、なにか突き抜けた感じがする。インタビューでは、スランプ中に「トラップ(ヒップホップのジャンル)でもやるか?と思ったけど……」と話していたが、それはそれで聴きたかった気もする(笑)。
Text: 本家 一成
◎リリース情報
『レイズ・ヴァイブレーション』
2018/9/7 RELEASE
WPCR-18076 2,138円(tax incl.)
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像