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2018/09/04

ジュスタン・テイラーのスカルラッティとリゲティ 才能燦めく新星が放つソロ第2弾(Album Review)

 ベルギーのブリュージュ(ブルッヘ)で開催される国際古楽コンクールの優勝者たるAlphaレーベルのチェンバロ奏者は、といえば、2004年の覇者バンジャマン・アラールの名前がまず思い浮かぶ。いまはハルモニア・ムンディで活躍する彼を懐かしむ必要は、しかしもうない。このコンクールに録音の権利を与える賞を出しているAlphaレーベルは、新たな、それもとびっきりの才能を抜かりなく掌中に収めたのだから。

 その名はジュスタン・テイラー。アメリカ系フランス人の彼は、オリヴィエ・ボーモンやブランディーヌ・ランヌーのもとで研鑽を積み、2015年に国際古楽コンクールを制覇。前述のAlpha賞を受賞してリリースしたフォルクレ父子の作品によるチェンバロでのソロ・デビュー盤(彼はフォルテピアノ奏者でもある)は、欧州批評誌で軒並み最高クラスの評価を受けた。2017年にはフランスのグラミー賞ともいえる「ヴィクトワール・ドゥ・ラ・ミュージック」で新進音楽家賞にノミネートされるなど、いま正にスターダムを駆け上がろうとしている逸材だ。そんなテイラーの2枚目のソロ録音は、スカルラッティのソナタ集に現代ハンガリーの作曲家、ジェルジ・リゲティ(1923−2006)の作品3つを挟み込んだアルバムである。

 最初に置かれているスカルラッティのソナタK.141/L.422は、右手による6つの連打音が6小節続いて始まったあとも、全曲で連打音が鳴り響くのが特徴的なテクニカルな曲だが、快速テンポで弾き進めるテイラーの鮮やかな指捌きに、のっけから耳を奪われる。

 こうした速さが求められる曲では、ハイレヴェルの技巧で生み出す鉄壁のリズム感と心躍るビート感がもたらす、瞬発力のある運動性は目覚ましく、スカルラッティの革新性をヴィヴィッドに切り出してくる。それでいながら、緩徐な曲では、一転してショパンの夜の歌を予感させるような音楽を丁寧に紡ぐ深謀遠慮も兼ね備えている。

 リゲティの『コンティヌウム』(1968)は、ミニマル・ミュージックへの接近が生んだ作品の一つで、いわば「マシーン」と化してみせるテイラーの正確無比な演奏を聴いていると、鼓膜を通じて、脳髄の中でチェンバロという楽器そのものの観念が解体されるような、不思議な感覚に襲われる。そしてそれゆえに、現代の文脈に置いたチェンバロという楽器による表現の可能性が開かれる。

 オペラ『グラン・マカーブル』を書き上げた直後、1978年に立て続けに書かれた『ハンガリー風パッサカリア』と『ハンガリアン・ロック(シャコンヌ)』は、『コンティヌウム』で模索したリズム面の研究も更に推し進めつつ、バロック音楽から大いにインスピレーションを受けた作品で、テイラーがつける陰翳が素晴らしい効果を発揮している。

 随所で才能の火花を散らすこのディスクを耳にする人は、注目に値するアーティストがまた1人現れたことを、驚きをもって知ることになるだろう。Text:川田朔也

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