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2018/09/08

デーブ・スペクターの教えてくれたこと【世界音楽放浪記 vol.12】

J-MELOが始まって以来、ブレーンを務めてきた親友がいる。デーブ・スペクターさんだ。

出会いは四半世紀前。ここ数年は、メールを交わさない日はないほど、公私ともに親しくさせて頂いている。デーブさんは、努力家で博識、そして情に厚く、お茶目だ。J-MELOというタイトルも、私が作ったいくつかの候補の中から、「これ、いいね、mellow(豊かで美しい)なmelody。とてもいい言葉だよ」と、デーブさんが選んだもの。デーブさんは、全世界のエンタメやテレビ番組の最新情報を惜しみなく教えてくれた。J-MELOが世界水準の番組になったのは、このような素晴らしい存在があったからだ。

2011年、東日本大震災発生。デーブさんは真っ先に私に連絡をくれた。ちょうど、彼がツイッターを始めた頃だった。「どうすれば良いだろうか?」という問いに、私はこう答えた。「こういう時こそ、いつものようにした方が良いと思いますよ。ユーモアがあれば、辛いことも和らぎますから」。デーブさんは、傷ついた日本を笑いで励まし続けた。「自分を笑ってくれて、それで元気になるなら、何よりだよ」。何てカッコ良いのだろう。日々の返礼に、寒いダジャレに「クールギャグ」という名を授けたのは、私だ。これが元来の「クール」の用法。つまり、最高なのだ。

私は、デーブさんのように、自分ができることは何なのだろうかと自問した。そこで、☆Taku Takahashi(m-flo)、Maynard Plant(Monkey Majik)、WISE、May J.の力を借りて、「The Lifelines」という被災者支援ソングをプロデュースした。番組には、世界中から励ましの声がたくさん届いていた。だからこそ、合唱が盛んな福島県の小学生の声を生かした曲を作り、視聴者に聴いてもらいたいと考えたのだ。ある日、☆Takuさんから着信があった。「子供たちに、T.H.A.N.K.Y.O.U.と歌ってもらうのはどうでしょうか?」。福島大学付属小学校の児童の歌声は、力強く世界へと響いた。感動的な光景だった。

その5年後、私は宿題を課せられていた。NHKワールドJAPANのプロモーション会場に集まってくれる方々と、世界的に知名度の高いどーもくんが、何か一緒にできることはないかと。私は、エクササイズ・ミュージックにのって、みんなが踊る「どーもびくす」(https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/domo/world/domobics/)という企画を思いついた。では、それを誰に歌ってもらおう?思いを巡らせていたら、「東京パフォーマンスドール」の資料が目に入った。こうして、ラモーンズのように、メンバー全員が「〇〇 Domo」という別名を持つアイドルユニット「東京パフォーマンスどーも」が誕生した。すぐに雰囲気が分かるデモテープを作り、☆Taku Takahashiさんに送った。シドニー五輪銀メダリストの永田克彦さんの指導を基に、振付稼業air:manが楽しく効果的な動きを付ける。作詞家のカワムラユキさんは、日本各地の名所や名物を歌詞に織り込んだ。アメリカ・サンフランシスコを端緒に、東南アジアで開催された日本文化イベントの会場でも「どーもびくす」は披露された。「どーもくん」「アイドル」「健康増進」の3つが、「世界」で結び付いたのだ。

全てはユーモアから始まった。「ユーモアがあれば、電気がなくても世界を明るくできる」。デーブさんのこの言葉は、私の座右の銘の一つである。Text:原田悦志


原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

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