2018/07/21
クールジャパン。このスローガンを目にするようになって久しい。しかし、私が世界中を訪れて、外国人の方々からこの言葉を聞いたことは、たった1回だけだ。日本ファンのJ-MELO視聴者でさえ「クールジャパン政策で何が行われているか知っていますか」という問いに対し、実に78%が「No」と答えた。(J-MELOリサーチ2015)
私は、クールジャパンのことを「実体法なき手続法」と呼んでいる。実体法とは「民法」「刑法」のように、「内容」を定める法律。手続法とは「民事訴訟法」「刑事訴訟法」のように、実現に向けての「手続」を定める法律。要は、実体がないのだ。例えて言うなら、野菜はあまり並ばないけど、建物だけ立派な八百屋さんを作る。それが現状のクールジャパンだ。
アニメやゲームを中心とした「日本関連フェス」は世界中で開催されている。これらは、東京で言えば、代々木公園で開催されている【タイ・フェスティバル】や【ベトナム・フェスティバル】のようなものだ。10万人規模での動員。でも、身近にどれだけのタイやベトナムの愛好家がいるか、考えてみれば実感できるだろう。日本ファンは「点在」しているのだ。
必要なものは2つ。
1つは、世界中で「点在」する日本文化に興味を抱く者を繋ぐ「絆=ネット」の構築。もう1つは、クリエイターへの「サポート」、言いかえれば、コンテンツの「創造主」へのリターンだ。前者は、研究者や愛好者の統合的なネットワークすら存在していない。後者は、投資対象が正しくなかったから、現在に至っているのだと思う。
たった1回、クールジャパンという言葉を聞いたのは、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)を中心に、ハーバード大、ボストン大など名門大学の研究者で構成されている「Cool Japan Research Project」でのシンポジウムであった。「過去には、経済をきっかけに日本研究を志す者がほとんどだったが、いま、主な入り口はポップ・カルチャーだ」と、主宰するMITのイアン・コンドリー教授は語った。アメリカにも、日本の現代文化に注目している研究者が少なからずいるのだ。天然資源の限られている日本で、最大の「内なる資源」は「人」だ。国内での評価など、世界展開には意味が乏しい。新しいことを始めるときに過去の実績は意味がないからだ。大事なのは「情熱」と「アイデア」。そして、それらを戦略的に下支えする「ファクト」だ。
自称ではなく、世界中の人々が「クール」と呼んでくれる日本。そのポテンシャルは十分にある。私はそう確信している。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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