2018/07/02
2016年に通算12週の米ビルボード・アルバム・チャートNo.1をマークした前作『ヴュース』から2年振り、5作目のスタジオ・アルバムとなるドレイクの新作『スコーピオン』は、全25曲、89分超えの大ボリューム。2枚組(ダブル・アルバム)として扱われているが、もはやストリーミング・キングのドレイクにとっては、この形態も然程意味を持たない気がする。LP(レコード盤)が売上を伸ばしていることを意識してのものだろうか。
本作からは、先行シングルとしてリリースされた2曲が、米ビルボード・ソング・チャート(HOT100)で首位を獲得。しかも、1stシングル「God's Plan」は11週、2ndシングル「Nice for What」はアルバムの発売までに7週のNo.1をキープし、上半期だけで18週間、1位を独占する快挙を達成している。「ドレイクの時代は終わった」なんてつぶやいた某ラッパーがいたが、前言撤回していただこう。
その「Nice for What」には、ローリン・ヒルのクラシック・ナンバー「Ex-Factor」(1998年)の大サビがネタ使いされたことが話題となったが、本作にはその他にも、比較的馴染み深い曲がサンプリング・ソースとして使われている。
たとえば、Aサイドの「Emotionless」には、マライア・キャリーの全米No.1ヒット「Emotions」(1991年)のリミックス・バージョンを起用。あのハイトーン・ボイスをバックに従え、ドレイクが朗読のようにラップする高低差の対比効果が、イイ味を出している。この曲では、前月にプシャ・Tが切り込んだ元ポルノ女優=ソフィー・ブルッソーとの「隠し子」について、「子供がいることを隠しているんじゃない、世の中から子供を隠している(守っている)んだ」と歌い、ディアンジェロの「Untitled」(2000年)を一部拝借した、 Bサイドの最終曲「March 14」では、「ソフィーは恋人じゃないけど、子供は自分の子」だと、騒動について言及している。
両者のディスり合いはゴシップ詩で大きく取り上げられたが、 プシャ・Tもドレイクもアルバムをリリースしたばかり。これらの騒動も、プロモーションの一環……という可能性も否めない。
その他にも、N.W.A.の隠れた名曲「Dope Man」(1987年)を使用した「Talk Up」や、先日新作『NASIR』をリリースしたナズの2ndアルバム『イット・ワズ・リトゥン』(1996年)から、「Affirmative Action」をサンプリングした「Mob Ties」、マックスウェルの「The Urban Theme」(1996年)使いの「After Dark」など、 90年代R&B~ヒップホップ世代にも耳馴染みがあるナンバーが目白押し。
その「After Dark」には、タイ・ダラー・サインとスタティック・メジャーがゲストとしてクレジットされている。 スタティック・メジャーは、リル・ウェインのNo.1ヒット「Lollipop」(2008年)にフィーチャーされた米ケンタッキー州のシンガー/プロデューサーで、同曲が大ヒットしている最中に死去したレジェンド。 ドレイク はこの「Lollipop」がお気に入りのようで、本作収録の「In My Feelings」にサンプリング・ソースとしても使っている。
スタティック・メジャーの他には、アリーヤの「More Than a Woman」(2001年)が一部登場するミステリアスな「Is There More」や、ソウルの名盤=マーヴィン・ゲイの『アイ・ウォント・ユー』(1976年)から「All the Way Round」を使った90sテイストの「8 Out of 10」、そしてフィーチャリング・ゲストとしてクレジットされた、マイケル・ジャクソン参加の「Don't Matter to Me」など、故人をリスペクトしたタイトルは、特にグっとくる。ドイツのシンセサイザー奏者=クロード・ラーソンの「Telex」を下敷きにした、豪華なオープニング・ナンバー「Survival」もすばらしい出来。
ボーカルがサンプリングとして使われているからか、ゲストのクレジットは少なく、 タイ・ダラー・サインの他には 「Talk Up」にジェイ・Zが参加しているくらい。自身は他アーティストの作品に引っ張りだこだが、自分のアルバムでは決して“ゲスト頼り”しないのも、ドレイクの魅力。プロデューサーは、ボーイ・ワンダーやイルマインド、ノア“40”シェビブ、マーダー・ビーツ、DJプレミア、ドレイクと同郷のT-Minusなど、過去の作品でもお馴染みのメンバーで固めている。
前作『ヴュース』からの大ヒット曲「One Dance」や、“プレイリスト”としてリリースした『モア・ライフ』(2017年)のヒット・シングル「Passionfruit」といった、トロピカル・チューンは皆無。初期の作品を彷彿させる「Elevate」や、オルタナティブR&Bの「Jaded」、スロウジャム 「Peak」など、お得意の“歌モノ”はあるが、 決してポップにクロスオーバーしてはいない。重量級の「Nonstop」や「Blue Tint」 、「Mob Ties」~「Can't Take a Joke」などのトラップはじめ、ラップスキルをみせつけたヒップホップ・トラックは言うことなし。
Text: 本家 一成
◎リリース情報
アルバム『スコーピオン』
2018/6/29 RELEASE
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