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2018/06/09

<インタビュー>シャム(ベイビー・シャム)が語るダンスホール・レゲエの現在

 リアーナが9枚目のスタジオ・アルバムは全編レゲエでいくとヴォーグ誌のインタビューで宣言し、スティングはシャギーとストレートなレゲエ作品『44/876』をリリース。夏にはSiaやデヴィッド・ゲッタ、ミゴスなどジャンルの違うアーティストと組んでコンスタントにビッグヒットを出しているショール・ポールのリリースも噂されている。ここで、「またレゲエがくる!ダンスホールがアツい!」とハイプな動きが出そうだけど、それは違う。レゲエもダンスホールもどこへも行っていない。キングストンや東京、ブルックリンの現場では盛り上がり続けているし、進化している。

 ただし、だ。表舞台(メインストリーム)では下火に見えてしまうのは、仕方がない面がある 。メジャーなレコード会社と契約しているレゲエ・アーティストがダミアン・マーリーなどマーリー・ブラザーズとショーン・ポール以外、いないのだ。2005年に「ゲットー・ストーリー」の世界的大ヒットで、メジャーに切り込み、同名アルバムを アトランティック/ワーナーからリリースしたシャム(ベイビー・シャム)もトップ・プロデューサーのデイヴ・ケリーのレーベル、マッドハウス・レコーズを足場に、インディペンデントで活動している。「ゲットー・ストーリー」のリミックスにアリシア・キーズが、アルバム収録曲の「Boom Boom」にはリアーナが参加していた。移籍の話が長引いて、アルバムがなかなか発売されなかった経緯があるのだが、「ゲットー・ストーリー」「(契約のことは)完全にマネージメントに任せている」と笑う彼と、昨夏リリースされた最新作『Lawless』とダンスホール・レゲエの現在を話した。

 基本情報。今年、40才になるシャムはジャマイカのキングストン生まれ。高校卒業とほぼ同時に本格的にダンスホールのDee Jayとして活動を初め、90年代は一世を風靡したペントハウス・レコーズの多くの人気リディムに乗り、10代のうちにブジュ・バントンやウェイン・ワンダーらと肩を並べた。ペントハウスから、プロデューサーの デイヴ・ケリーが独立したタイミングで、 ともにマッドハウス・レコーズを盛り上げた。デイヴ・ケリーは、ダンスホール・レゲエにおいて、なんども革命的なリディムを放ってきたトップ・プロデューサー。とくにレゲエは詳しくなくても、洋楽好きだったり、クラブに行ったりしている人は、彼の作った<Fiesa>リディムや<Eighty-Five>あたりの曲を耳にしたことがあるはず。

 『Lawless』のプロモーション・ツアーの一環で、2017年に4度目の来日。クラブ・ツアーなのに、ドラマーを連れてくるという荒技を見せ、ファンを驚かせたことは記憶に新しい。このインタビューは、最終日の渋谷の翌日に取ったもの。「俺は、基本的にトラックショウ(演奏を流して声だけ乗せる)はやらないんだ。日本からオファーはたくさん来たけど、全部トラックショウの話だったから、マネージャーが受けなかった。アルバムのプロモーションも兼ねていたから、ミュージシャンと機材の費用を自分持ちにして日本に来ることにしたんだ。プロモーター側に頼むのはモニターとドラムキットだけだ。自分でドラムキットを持つこともあるよ。限りなくバンドショウに音を近づけることができるから、その甲斐はある。SNSの反応を見てもわかる。みんな大喜びだったろう」

 カリブ海諸国やアメリカ、ヨーロッパのコンサートは基本的にバンドで、ジャマイカでもめったにクラブや屋外のダンスでマイクを握らないので、昨年のツアーでシャムを見られた人はラッキーだったかも。「インディペンデントな形で活動するアーティストへもみんな自分のやり方があるし、俺らのやり方はたまたまこれ、っていう話。(ドラマーを入れると)プレイバックがないから、ライヴ感が出る。ライヴミュージックを準備するのは時間がかかるけど、うまくまとまったときは最高だ」とシャム。プレイバックは、盛り上がったときに焦らしたり、ミスをしたりしたときに頭からやり直すこと。実は、レゲエ・アーティストはバンドを従えたバンドショウでも平気で「プール・アップ!」と言って止めたり戻したりするのだけれど(それについていけないとレゲエのバックバンドはできないのだけど)、たしかに多用すると流れが止まる。

 プロモ・ツアーでは24曲も披露、そのうち 7曲が『Lawless』からだった。 「Back Way」や「Stronger」などすでにヒットになっている曲もあったが。
「リリースしたばかりの浸透していない曲もやった「Hero」とか。あの曲は日本のどこでも反応がよくて嬉しい」。「Hero」はシャムが得意なシングジェイ(歌とDee Jayの中間のスタイル)いうより、ほとんど歌っている。「(アルバムに参加している)モヴァードにプレッシャーをかけるレベルですね」と冗談を言ったら、「ハハ。今回はきちんと歌う曲をやりたい、とデイヴには強く訴えてできた曲だ」。モヴァードとの「Love Song」も転調が多くて聴きごたえがある。「あの曲も気に入っている。デイヴのトラックは誰でも歌いこなせるものではないからね。モヴァードも本気を出してきて、ビシッと決めてくれた」。

 「Get Drunk」に参加しているミス・オーは、O名義で「Wine」 や「Tun Up」といった現場人気の高いチューンにも参加しているフィーメイル・アーティストだ。この女性、実はシャムの奥さん。「隠したつもりはないけど、(奥さんだと)知らない方が、みんなに彼女の才能をそのまま評価して受け入れるだろうとは思った。18才くらいから付き合って結婚したんだよ」。ミス・オーがアーティスト活動をはじめたのは「偶然」だという。「ほかのアーティストに曲を送るためのデモを作るときに、彼女に声入れをしてもらったんだ。それを聞いて、「ああ、これだ、もう送る必要ないね」という話になった。クレジットしないままリリースしたら、誰だ、誰だって騒ぎになって」。

 マイアミで住んでいることもあり、アメリカの流行をダンスホール・マナーに解釈したファッションが見られるビデオも話題になったので、ぜひチェックしてみて。筆者は、ミス・オーの のパフォーマンスを見たことがある。「2年くらい一緒にステージに立った。ヨーロッパのツアーは一緒に回ったし、サンフェス(ジャマイカ最大のレゲエ・フェス)にも出た。彼女にソロのオファーが来るようなったけれど、ツアーが苦手で嫌みたい。ステジオ・ワークは大好きみたい。彼女自身は積極的にアーティストになるつもりもないんだ。おとなしいから、性格的に向いていないかも」

 ここ数年、メインストリームでジャスティン・ティーバーがダンスホールを取り入れたり、アリアナ・グランデがストレートなレゲエを歌ったりするケースが増えている。トロピカル・ハウスなど、ダンスホールを取り入れた新ジャンルもある。それについて、どう考えているか聞いてみた。

 「 悪評は存在しない(No publicity is bad publicity)。どんな形でも(ダンスホールが)話題になることはいいことだよ。ダンスホールやレゲエが第一線で通じる音楽だという証でもある。この音楽が商業的にも成功することを、レコード会社とかがわかってくれるといいんだけどね。ジャスティン・ビーバーやアリアナや……あと、名前なんだっけ、イギリス人の……エド・シーランだ。彼の最大のヒット曲(Shape of Your Bodyを歌う)、あれはダンスホールだよ」。この会話の直後にリリースされたN.E.R.D.の新作に収録されている「Lifting You」は、エド・シーランとファレルが80年代マナーのダンスホールをもろにジャックしている。

 北欧で盛り上がった、ダンスホールのテンポをEDMに取り入れたトロピカル・ハウスについては、少し舌鋒が鋭くなった。「あれはまやかしだから、嫌いだ。ダンスホールをやるなら、ちゃんとダンスホールってクレジットしてくれないと。使うだけ使って、別の名前をつけるのは卑怯だと思う。レゲエをやるなら、ダンスホールをやるなら、そう呼べばいい。音楽に境界はないから、誰がやってもいいんだよ。でも、ダンスホールを使っているのに、別物に見せるのはなし。堂々と「これはダンスホールです」って言って、レゲエやダンスホールを広めてくれればいいのに」。

 2015年にレゲエ・サークルで問題になったアサシンの声がカニエ・ウエストの「I'm In It」とケンドリック・ラマーの「The Blacker The Berry」に使われたものの、客演としてクレジットされなかった件にも話が及んだ。

 「アサシン本人は自分が飲んだ条件をわかっているからね。文句はないだろうし、俺もそれに関して口は挟まない。俺はアサシンをとてもリスペクトしているし。ただ、自分だったら絶対にクレジットしてもらう。一般的に、最初に使用許諾のギャラだけもらってレコーディングをして、どう使われるかわからないパターンはよくあるんだ」。実際、筆者もアサシン本人に聞いた際、ポジティヴなコメントをもらった。ただ、アサシンはダンスホール・レゲエの大物だ。カニエやカンフー・ケニーの世界的知名度には及ばなくても、レゲエ・ファンにとって大切な存在で、その声が本名だけクレジットに小さく明記されただけで終わったのは、残念だったし、いまだいこの2曲を耳にするモヤモヤする。

 シャムの話に戻そう。デイヴ・ケリーと、次のプロジェクトに取り掛かっているそう。「次のアルバムは新曲を10曲、フレッシュな曲ばかり揃えてリリースする」。今年のゴールデン・ウィークは、ターラス・ライリーやMighty Crownとロンドンの名門ヴェニュー、O2アカデミー・ブリクストンでコンサートを終えたばかり。今後の展開が楽しみだ。

Interview: 池城美菜子

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