2018/05/28
4月20日に28歳という若さで逝去したスウェーデンの音楽プロデューサー、アヴィーチー。彼が生前に音楽シーンに与えた影響は大きく、まるでそれを物語るかのように、代表曲である「ウェイク・ミー・アップ」が改めて聴かれることとなったことは、同楽曲のチャート・アクションを見れば明らかだろう。
2018年4月30日付の総合チャート“JAPAN HOT100”では、動画再生回数が3位、Twitterでは追悼コメントが数多くポストされ13位となり、総合では17位を獲得。さらにラジオ番組では追悼プログラムが数多く組まれ、翌週の5月7日付チャートでエアプレイが14位、総合では12位にランク・アップするなど、ダイナミックなリアクションがこの“JAPAN HOT100”においても顕著に見られた。
今回のコラムでは彼への追悼の意も込めて、純粋にアヴィーチーの音楽のことを語っていこうと思う。
2012年にスクリレックスが『グラミー賞』を受賞したことや、デヴィッド・ゲッタが自身のヒットソングをリミックスしたことがきっかけで、徐々にEDMという一つのカテゴリーが広まっていき、米マイアミで行われる【ULTRA MUSIC FESTIVAL】やベルギーで行なわれる【Tomorrowland】など大型フェスの影響もあり、市民権を得たEDMというムーブメントの中、アヴィーチーはその才能を爆発させた。
今回改めてチャートインした「ウェイク・ミー・アップ」だが、当時のEDMのイメージを覆すアコースティック・ギターから始まっている。コード進行も“Bm-G-D-A”という、主に4つのコードで構成されていて非常にシンプルだ。メロディーの語尾のニュアンスもカントリー調を意識した歌い方になっていて、この曲でフィーチャーされているアロー・ブラックの歌のスキルとしての懐の広さが垣間見える。
EDMの特徴と言えば、やはりサビ前にくるビルドアップと言われる演出、サビ後に来るド派手なシンセのリフだろう。しかしこの曲では、あえてそこまで強調しないアレンジになっている。サビ後に来るシンセのリフも、彼の母国スウェーデンの伝統楽器であるnyckelharpa(ニッケルハルパ)の音色が聴こえてきそうな、どこか牧歌的なメロディになっていて、今にもフィドルの音色が聴こえてきそうだ。
ペンタトニック・スケールなため、テンポを遅くするとなんとなく演歌チックなメロディーにも聴こえてくるので、日本人の心にもスーッと入ってくる旋律で構成されている。アヴィーチーがここ日本にもおいても海外と同じように人気を獲得できたのは、こういった理由もあるのだろう。
彼の曲の特徴はスウェディッシュ・フォークソングにも通じる、誰もが口ずさめる親しみやすいメロディーとリズム、母国語が英語ではない国独特の“わかりやすい英語”(歌詞)で作られている。EDMアレンジ以前に、メロディーと言葉にしっかり芯があれば充分にリスナーにも伝わるし、アヴィーチーの曲をカバーしている他ジャンルのアーティストも多くいることが、そのことを証明しているし、彼の新たな魅力に気付かされる。
「ウェイク・ミー・アップ」以外の曲を聴いてもらうと気付くと思うが、彼の楽曲にはアコースティック楽器が多く使われており、エレクトロニックな音色に抵抗がある人でも自然に聴ける施しがされている。アコースティックとエレクトロニックの絶妙なバランスと、EDM独特の高揚感の融合が一般のリスナーだけでなく、著名人やバンドマンなど幅広い音楽人にも愛された理由の一つなのだろう。
彼の新しい作品をもう聴けないのが残念だが、ご冥福をお祈りしつつ、アヴィーチーに影響を受けた音楽が新しい形で広がっていくことを願う。
Text by 横山裕章(agehasprings)
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