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2018/05/19

『エレクトリック・ライト』ジェイムス・ベイ(Album Review)

 実力とルックスを兼ね備えた、UK音楽シーンのジョニー・デップ(?)ことジェイムス・ベイは、イギリス東イングランドのハートフォードシャー出身の27歳。2014年9月に発売したデビュー・シングル「レット・イット・ゴー」がいきなり全米16位/全英10位の大ヒットを記録し、同曲が収録されたデビュー・アルバム『カオス&ザ・カーム』は、本国イギリスで初のNo,1を獲得。【第58回グラミー賞】で計3部門にノミネート、【ブリット・アワード】では2015年、2016年と2年連続でノミネートされ、2016年には<最優秀ブリティッシュ男性ソロ・アーティスト賞>を受賞した。

 デビュー・アルバムがこれだけ高く評価されただけに、「ジェイムス・ベイは一発屋」、「2ndはそこまでヒットしないだろう」とネガティブな意見も寄せられていたが、ヒットするしないは別として、およそ3年振りにリリースした新作『エレクトリック・ライト』が(ありきたりだが)文句ナシの出来栄え、ということは断言しておく。ブランクや「売らなきゃ」という雑念やプレッシャーなんて微塵も感じさせない、余裕やベテランの風格すら感じ取ることができる傑作だ。

 2月にリリースした1stシングル「ワイルド・ラヴ」は、ダイヤモンド・アルバムに認定されたアデルの大ヒット作『25』(2015年)を手掛けた、ポール・エプワースがプロデュースしたミディアム・ロック。ハットにロングヘアがトレード・マークだったビジュアルも一新し、バッサリ切り落としたヘア・スタイルで登場したミュージック・ビデオも、紫の蝶が舞う音とリンクした芸術的な作品だった。この曲は、誰かを好きになる経験について歌ったものだそう。

 一転、2ndシングルの「ピンク・レモネード」は、80'sニュー・ロマンティック風のスピード感あるグラム・ロックで、スパンコールをあしらったTシャツでロバート・パーマーっぽく振る舞う演出が、これまで抱いていた“ジェントルマン”なジェイムス・ベイのイメージを、良い意味で覆した。乾いたギターの音も、イイ味出している。「生きていく厳しさの中でも、暗闇の中に希望を見出すことができる」と、ネガティヴとポジティヴどちらの思いも綴った3rdシングル「アス」も、心に響く良い曲。美しい旋律に乗せたゴスペル風のコーラスが、また涙を誘う。こういった感情を露わにしたボーカルは、1stでは聴けななかった気がする。

 単語を重ねて繋げるラップ調のヴァースから、手拍子と合わせて高らかに歌うゴスペル調のサビへと展開する壮大なナンバー「イン・マイ・ヘッド」、キャッチーな旋律と、ライヴ映えのしそうなバンド・アンサンブルのロック・チューン「ジャスト・フォー・トゥナイト」~「ワンダーラスト」、ブルースやソウルの源流を辿る熱く泥臭い「アイ・ファウンド・ユー」、カントリー・ロック風の爽快なパワー・バラード「シュガー・ドランク・ハイ」、エフェクトやエレクトロ・サウンドを起用したUKらしいポップ・チューン「スタンド・アップ」、ジェイムス・ベイのファルセットが最も美しく奏でられた「フェイド・アウト」、ラストを飾るピアノ1本で弾き語るバラード曲「スライド」…と、シングル以外のタイトルも一切妥協なし。サウンドはバラエティに富んでいるが、アルバムとしてのまとまりはしっかり感じられる。

 本作について、ジェイムス自身「新しいサウンドに挑戦した。ルールやこれまでのイメージを破ることができたらいい」とインタビューで話していて、そういった心境や音楽性の変化が、楽曲に反映していることが分かる。『エレクトリック・ライト』というタイトルは、アーティストとしての進化を“100ワットの電球が膨張して輝く”イメージで付けたとのこと。もちろん、前作『カオス&ザ・カーム』を愛聴していたファンも、ガッカリすることはないアルバムに仕上がっていて、ライブでの演奏も期待できそうな傑作が揃っている。8月に開催される【フジロック2018】では、本作からのナンバーも多数、披露してくれるだろう。

 日本盤&海外デラックス・エディションには、シングル3曲のアコースティック・バージョン、日本盤ボーナス・トラックには「コンファメーション」、「ヤング・ハーツ・イン・ザ・ダーク」の2曲が収録される。Text:本家一成

◎リリース情報
ジェイムス・ベイ 『エレクトリック・ライト』
2018/5/18 RELEASE
UICU-1294 2,700(tax in.)

 

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