2018/05/16
会場を出たとき、あまりのギャップで逆にすんなりと日常に戻れた。まるで一瞬だけ海外へ旅行をしたかのよう。あそこはビルボードライブ東京ではなく、アメリカ・ニューオーリンズだった。
ドラムの2人以外は全員ホーン隊というソウル・レベルズ。ドラムが2人いるバンドも珍しいが、さらにこのバンドはベースもピアノもいない。トランペット、サックス、トロンボーンに、あまり馴染みのないスーザフォンを含めたホーン隊が、一体どんなサウンドを聴かせてくれるのかとワクワクさせる。
会場で流れていたホット・エイト・ブラス・バンドの「It’s Real」が少しずつフェードアウトし、重厚なサウンドのイントロが流れる。メンバーの登場だ。この瞬間はいつもたまらない。ステージと客席に壁を作らず、姿が見えたときから持っている楽器と一緒に拳を突き上げ、手を振り、会場を一つにする。一瞬にしてそこはニューオーリンズの街となった。
まさに一流のパフォーマー集団。彼らは、メタリカ、グリーン・デイ、ロバート・グラスパーなど、幅広いジャンルのアーティストとのコラボで進化を続け、ローリン・ヒルやカニエ・ウエスト、ブルーノ・マーズなど素晴らしいアーティストたちのコンサートに呼ばれ、参加してきた。毎年なんと250以上もの公演を全世界でこなす彼らが、2015年の初来日以来、定期的に日本を訪れている。日本のファンを着実に魅了しているのだ。
メロディとメロディ、リズムとリズムが重なり、1つのサウンドになる。お客さんに声をかけ、力いっぱいの声を出させる。バンド名の入りの曲「Rebel Rock」と共に、ニューオーリンズのカーニバルが始まった。6人から成るホーン隊の迫力、しっかり役割分担され会場全体をグルーヴさせる2人のドラムス。振り付けで全員で動きを揃えることもあれば、ときには自由に動き回り、常に観客とコミュニケーションする。隙あらばハイタッチだ。それでもまだまだだと、会場全体にハンドクラップをさせる。曲の一部となった観客のハンドクラップに合わせて増していく会場の一体感、グルーヴ、圧巻だ。リズムがスウィングに変わり、ジャズ色を強くし、メンバーが次々とソロを披露、自己紹介をしていく。そうやってカーニバルを楽しんでいるうちに、なんといつのまにか3曲目だ。曲の間に休みが無い。すべての曲が流れるように移り変わっていく。まるで壮大な1曲のようだ。
3曲目の「Rebelosis」が終わり、「日本に来れてとても嬉しい」と短めに挨拶。そのまま次の曲に突入し、オーディエンスを席に座らせない。ヒップホップ、ジャズ、ロック、幅広い音楽をルーツに持つ彼らは、この「Slide Back」で力強い歌とラップを披露し、観客を煽っていく。また、もともとニューオーリンズの曲かのように編曲されたマイケル・ジャクソンの「Remember The Time」のカバーでは、ベースの役割をしていた管楽器、スーザフォンのソロが会場全体を響かせる。マイクが付いていなくても会場全体を埋め尽くすような重低音と遊び心のあるソロにドラムスが応じ、スーザフォンが演奏したリズムをドラムスが繰り返したりと、まるで会話をしているようなリズムの掛け合いをしていく。そこからまたもや休むことなく「I’m So Confused」のコーラスが始まり、体がつい動いてしまう曲の畳みかけに、会場の熱気も一段と高まっていく。
少しの間を挟み、2つトランペットが美しい旋律を奏で、「Respected Destroyer」が始まる。片方がメロディを演奏し片方がコードを演奏するのではなく、両方がメロディを演奏して形を作るジャズの手法を彼らはすべての曲でうまく活用しており、迫力や華やかさ、賑やかさを引き出している。少し落ち着いたと思いきや、大きいシンバルの音と共に、ドラムスだけのイントロが始まる。バスドラムとスネアドラムを2つに分けて演奏しているこのセッションは珍しく、役割分担が目に見えて面白い。兄弟で遊んでいるかのようなドラムセッションから繋がった「Can You Feel The Beat」では、再びマイケル・ジャクソンの「Wanna Be Startin’ Somethin’」のフレーズも飛び出し、オーディエンスの熱狂ぶりはさらに加速。続く「If I Ruled The World」では、再度ラップで観客を煽り、さらにジェームズ・ブラウンの「Get On Up」のフレーズから始まる「Get Up」ではメンバーがフロアに降り、オーディエンスは総立ち、大熱狂の中ライブ本編は終了した。
そのまま拍手は鳴りやむことなく、会場中にアンコールを求めるハンドクラップが鳴り響く。サックスのエリオン・ウィリアムスが再びステージに上がり、メンバーも続々とステージに合流。観客とのコミュニケーションをもっとも楽しむトロンボーンのポール・ロバートソンはそのままフロアで観客とコミュニケーションを楽しんでいる。「One More?」と聞くと、観客は再び熱狂的な声を上げ、みんなで「ファイブ・オー・フォー」と歌う「504」に突入。観客総立ちでのコール&レスポンスにソウル・レベルズも一段と熱のこもった演奏で応え、ニューオーリンズのカーニバルは幕を閉じた。
約80分に渡るステージ。ニューオーリンズのカーニバルがそのままビルボードライブ東京を埋め尽くしているようだった。8人編成のブラス隊だと、なかなかの大所帯というイメージだったが、実際に見ると、「これは街中で演奏できるように、身軽にできているな」と感じた。だからこそあれだけ身軽に観客とコミュニケーションができるのだろう。
もし今回逃してしまったという方は、明日17日にビルボードライブ大阪で開催されるこのニューオーリンズのカーニバルを楽しみに行ってみてほしい。
Photo by Ayaka Matsui
Text by よう いんひょく(Inhyeok Yeo)
すべてのパートを自分の声だけで演奏する一人アカペラ・シンガー。
一人アカペラ作品をネット上に公開、全世界で話題となりYouTubeの合計再生回数は500万回を超える。CM出演や海外アカペラグループとのコラボなど、幅広い活動を展開している。
◎公演情報
【ソウル・レベルズ】
ビルボードライブ東京
2018年5月15日(火)※終了
ビルボードライブ大阪
2018年5月17日(木)
1st 開場17:30/開演18:30
2nd 開場20:30/開演21:30
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