2018/05/08 20:35
30年のキャリアに喝采!
東京とニューヨークのセンシティヴなマインドを全身で吸収しながら、常にチャレンジャブルな作品を発表してきたMonday満ちる。彼女が昨春に続き『ビルボードライブ東京』のステージに上がった。もはやホームグラウンドと言っても差し支えない会場での、言ってみれば“凱旋公演”。豊潤なキャリアの中で紡いできたナンバーたちのセレクトに興味が集まるが、アシッド・ジャズを中心としながらも幅広くボーダレスな音楽性を持つ彼女の、今回のセット・リストはどんなコンセプトに基づいているのか――。バンドの顔ぶれを筆頭に、楽曲のアレンジなど、ベテランならではの表現がどのようなテイストなのか、見どころ、聴きどころの多いライブになった。
振り返ってみれば、日本人とアメリカ人のジャズ・ミュージシャンを両親に持つ彼女は、“サラブレッド”という表現がよく似合うアーティスト。しかし、そのキャリアは決して親の七光りではなく、常に挑戦し続け、独自のスタイルを切り拓いてきた賜物と言っていいだろう。だから、トレンドの最先端である東京とニューヨークの空気を胸いっぱいに呼吸し、時代に見合った表現を模索してきた彼女のディスコグラフィは、それを物語るかのように矢継ぎ早に表現スタイルを更新し、いつもフレッシュ。しかし、その進歩的なアティテュードが、一部のコンサバな評論家からは「ハイプ」「日和見」と揶揄されてきたことも事実。それでも信念は揺らぐことなく、結果として昨年、実り豊かな30周年を迎えた。そんな鉄の意志と申し分のないスキルがバランスよく噛み合っている近年のMonday満ちる。ライブの充実度に疑う余地はない。
スムースでダンサブルなビートに彩られたナンバーが冒頭から炸裂する。バックは基本的な4人のスモール・コンボながら、都会的な響きをもたらす複雑なコード進行やリズムが楽曲に洗練された陰影を与え、音楽の進化を実感させるようなステージが展開されていく。時代の気分によって、ときには「渋谷系」と括られたり、Kyoto Jazz Massiveとのコラボを軸に「アシッド・ジャズ」、あるいはMONDO GROSSOとの共演を通して「ブラジリアン・クラブ・サウンド」と表現されたりと、まさに万華鏡のようにさまざまな貌を披露してきたMonday満ちるだが、ここ数年は、いい意味でキャリアの総括を行っているように感じられる。原点回帰――もちろん、それが次のステップのためのプロローグであることは明らかだが、このタイミングで彼女の音楽を共有できるのは、とても貴重なのでは。なぜなら、これまでのキャリアがどのようなカタチで血肉化されているのかを知る、またとないチャンスだからだ。
そんな僕の意識をすくい上げてくれるように、さまざまなミュージック・ファクターが混ぜ合わされた、複雑ながらも実に洗練されたアーバンなクラブ・ジャズが目の前で繰り広げられていく。やや硬質な彼女の歌声は、ふくよかなサウンドと絶妙なコントラストを醸し出し、研ぎ澄まされた都市生活者のための音楽に結実していく。キメが細かく、艶めかしい音の質感も六本木で聴くにはうってつけだ。
それにしても今回のエモーショナルな歌い方といったら!いつものように流れるようなステージ構成の中で、とても印象的だったのが、昨年リリースされたデュエット作からのナンバー。デコレイションを削ぎ落したミニマムなパフォーマンスに、表現者としての彼女の「成熟」や「深み」が体感できたことは、今回のライブでの一番の収穫。なぜなら、以前のステージにはなかったと思しき、生身のMonday満ちるが晒し出された瞬間に鳥肌が立ったからだ。それだけ現在の自分の表現に対する自信を深めているのだろう。
都会のエレガントな陰影を表現したかのようなステージは、心地好いスピード感と共に佳境に。バックのカーテンが左右に割れ、イルミネイションが目の前いっぱいに広がった瞬間、ラグジュアリーな肌ざわりと共にライブの醍醐味が強烈に伝わってきた。都市生活者による、都市生活者のための音楽――徹頭徹尾、アーバン・サウンドにこだわった演奏は、冒頭に記した通り“喝采”のレベルに到達していた。
今回のライブは東京に引き続き、9日に大阪でも2ステージ披露される予定。30年のキャリアを経て、彼女が積み重ねてきたスキルとセンスが一挙に解き放された特別なパフォーマンスに、ぜひとも駆けつけたい。進化が止まらないMonday満ちるの“今”という瞬間が目撃できる貴重な機会になるはずだから――。さて、準備はいいですか?
◎MONDAY満ちる公演情報
2018年5月7日(月)ビルボードライブ東京※終了
2018年5月9日(水)ビルボードライブ大阪
<メンバー>
MONDAY満ちる (Vocals, Flute)
鈴木よしひさ (Guitar)
小泉P克人 (Bass)
吉澤はじめ (Piano)
菅野知明 (Drums)
詳細:http://www.billboard-live.com/
Photo:Yuma Totsuka
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。そろそろ蒸し暑さも感じる季節の到来ですが、こんな時期にエア・コンディショニングのしっかりしたスペースでワインの比較テイスティングを試してみるのも粋。例えばフランスのロワールやボルドー、近年はニュージーランドなどが代表的なソーヴィニヨン・ブランでも、アルプスの麓の北イタリアや陽射し豊かなラングドックあたりの南仏では、そのキャラクターもかなり違う印象。比較的、手ごろな値段のものも出回っているので、気の置けない仲間と数人でカジュアルに味わうのも楽しい。同一品種によるテロワールや栽培・醸造手法の違いに想いを馳せながら口に含めば、鮮やかなワイナリーの景色が広がるかも!?
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