2018/05/04
帰宅して数時間。未だに身体の中に漂う艶めかしい響き。それは、まるでグラン・クリュ・ワインのようなフィネスで…。紛うことなき、深く、長い余韻を残すライブだった。
アル・グリーンの「Love And Happiness」が会場に流れる中、メンバーがステージに揃うと、メロウな音が1つずつ重ねられ、その響きは「Cool Out」のフレイズに。ソウル・ミュージックが美しく進化した時代の艶やかなサウンド、そしてリズム。しばらくすると“彼”がステージ横の扉から姿を現す。これは、まさしく“奇跡”に違いない――黒人音楽ファンの間では、もはやレジェンド扱いのシンガー・ソングライター/プロデューサーであるリロイ・ハトソンが、まさかの初来日を果たした!
メロウ・グルーヴの達人と言っても差し支えないリロイ。彼に光が当たり始めたのは、カーティス・メイフィールドの後釜としてインプレッションズに参加したことや、ダニー・ハサウェイのヒット曲「The Ghetto」の共作者として。だが、その本領が発揮されたのは、やはり1973年のソロ・デビュー以降だろう。ニュー・ソウル・ムーヴメントのスピリッツを引き継ぎながらも、都会的なナンバーを次々とドロップし、シカゴ・ソウルの「洗練」を体現してきたキャリアは今も鮮やかさを失っていない。
レア・グルーヴやフリー・ソウル以降、世紀を跨いで進んだ再評価。そんな状況を反映して、昨年には全盛期のナンバーはもちろん、未発表曲もコンパイルした『アンソロジー1972-1984』もリリースされ、まさに今が“旬”なリロイ。その彼が絶好のタイミングで来日したのだから、まさにこれは“大”のつく事件と断言したい。
サイド・ヴォーカルや管楽器奏者も含む9人のゴージャスなバンドが、初っ端からアーバンで官能的なサウンドを繰り出してくる。これこそ、紛うことなき筋金入りのシカゴ・サウンド。優しい肌ざわりながらも芯のしっかりした骨太の音は、寒風が吹く“ウィンディ・シティ”のそれにふさわしい。爽やかな高揚感とアダルトな艶めかしさが交互に顔を覗かせていく。都会の人間関係をなぞるかのようなロマンティシズムとドライなメンタリティが交錯する曲の展開に、詰めかけた人たちがのめり込んでいく。満席の会場は次第にリュクスなプライベート・サロンのようにしっとりした空気に覆われ、リロイの世界観が隅々まで染み渡っていく。まさにメロウ・グルーヴ・マスターの面目躍如たるパフォーマンス――。
足を運んだ誰もが聴きたかったに違いない名曲の数々を、先ごろリリースされたばかりの『アンソロジー』の如く立て続けに披露していく。あとは、すっかり彼の手のひらの上で踊らされたような感覚に。全身に広がる甘い敗北感。ピロートークに骨抜きにされたような気分を、僕は一心不乱に貪った。
年齢を重ねた今も70~80年代と何ら変わることのない艶やかな声。黒糖のようにスウィートでコクのある歌が、まるで耳元で囁き続けるように紡がれていく。アフリカン・ルーツを漂わせる滑らかなうねりとジャジィな響きを忍び込ませ、芯には熱いファンクのリズムを秘めながらもソフトでスムースなサウンドは、性感帯をやわらかく刺激するような感触も孕んでいて、聴き手をリラックスさせてくれると同時に、ちょっとセクシーに気分にも。デトロイトにレオン・ウェアあれば、シカゴにリロイ・ハトソンあり。まさに、70年代の官能を体現してきた2大巨頭の1人と表現していいだろう。
また、リロイが連れてきた米英混合のバック・メンバーは驚くほどのスキルとセンス。艶めかしくうねるリズムは、まさに身体から染み出してきているとしか言いようがないほどナチュラルで、全員のグルーヴが肉感的に絡み合い、深くてコクのあるサウンドが紡ぎあげられていく。その音粒は確実にオーディエンスの身体の奥深くまで浸透し、強い中毒性を引き起こす。まるで媚薬のように――。
繊細なファルセット・ヴォイスを繰り出しながらの観客とコール&レスポンス。穏やかな人柄が滲むようなステージ・パフォーマンスとラグジュアリーな演奏がオーディエンスの背中を押す。ライブが佳境に差し掛かったころには総立ちになり、会場はハッピーなムードで一体になった。
アンコールも含め、完全無欠なリロイの世界観が隅々まで染み渡った80分。このミラクルなステージは東京で5日、大阪では7日に繰り広げられる。シカゴ・ソウルの洗練を体感できる、まさに貴重なチャンス! ゴールデン・ウィークのスケジュールでも最優先と言い切りたいリロイのライブを、ぜひとも大切なパートナーと共に。思い出深い夜になること間違いなしだから。
Photo: Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。駆け足の速さで暑さが到来したゴールデン・ウィーク。きっと今夏も猛暑にヤラれるはずだから(笑)、今から「暑さ凌ぎ」を考えておきたい。そこで見直したいのが「カチ割りワイン」。邪道と非難する人もいそうですが、どうしてどうして。耐えきれなそうな暑さをやり過ごすにはもってこいのアイテム。赤なら渋み=タンニンの少ないものを、白なら酸が穏やかなものを。そして、カバなどのスパークリングをカチ割りで楽しむのも一興。爽快な味わいに目から鱗かも。試す価値アリ!
◎公演情報
【リロイ・ハトソン】
2018年5月3日(木・祝)※終了
2018年5月5日(土・祝)
ビルボードライブ東京
2018年5月7日(月)
ビルボードライブ大阪
詳細:http://www.billboard-live.com/
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