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2018/05/05

<ライブレポート>ラケル・カマリーナの精緻なラヴェル、魂の叫びが宿るヴァイル、地声で歌う故郷のファド【LFJ2018】

 ラケル・カマリーナ(ソプラノ)とヨアン・エロー(ピアノ)による、2つの全く違う“亡命”や“故郷”を思わせる歌曲プログラムが、クラシック音楽祭【ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2018】にて2日連続で披露された。

 このデュオは、4月28日放送のテレビ番組『題名のない音楽会』にて、ラ・フォル・ジュルネを作り上げた音楽プロデューサーのルネ・マルタン一押しアーティストとして「『フランスの魂が宿っている』とルネが絶賛、ラケルとヨアンの2人組です」と紹介された。次世代を担う演奏家として注目を浴びている2人のコンサートは、初日から会場いっぱいの聴衆で満杯となった。

 今年の【ラ・フォル・ジュルネ】のテーマは“モンド・ヌヴォー 新しい世界へ”。このテーマに沿い、初日はフランスやスペイン独特のオリエント情緒とフランスのエスプリの香りが渾然一体となったプログラムだった。冒頭、『題名のない音楽会』でも放送されたラヴェル「アジア」が歌われると、そのドラマを感じさせる激情と静寂に、自然と拍手が沸き起こった。ラヴェルで見せた妖艶さから一転、ファリャ「7つの民謡」は歌い上げるよりも語りかけるような自然な佇まい。しかし感嘆語である「Ay!(アイ)」には、ハッとさせられるほどの力強さが滲み出た。ガルシア・ロルカ「アンダ・ハレオ」「カフェ・デ・チニータス」からはギターを伴い、チャピのサルスエラ、そしてドリーブと、スペインの小粋な少女の言葉を魅力たっぷりに紡いだ。

 2日目は“追放者たちの歌”とのタイトル通り、故郷追われ、生を脅かされ、土地から、人生から去った者たちの言葉を歌った。シェーンベルクに学びアウシュビッツ収容所に送られガス室で死んだウルマンの「ルイーズ・ラベのソネットop.34」は、カマリーナの極めて正確な音程と発音により、美しさとその激情の対比が際立ったチクルス。メシアンのヴォーカリーズでは、まるで声がひとつの精緻な楽器のようにぴたりとピアノとユニゾンになる瞬間に驚かされる。そしてその後のプーランク「華やかな宴」や、ヴァイル・ソングで披露された語りのような“うた”で顔を見せ始めたのは、カマリーナの“女優”的魅力だろう。「Je ne t'aime pas!(あんたなんか愛してないわ!)」と“コトバ”を叫ぶカマリーナの声には、“カンペキ”をかなぐり捨てた、生々しい感情が宿っていた。

 パリで学ぶカマリーナは、ポルトガル出身。初日のコンサートの最後に「今回、日本に来るまでに、私は2回旅をしてきました。私にとって特別な歌である、故郷の『ファド』を、ふるさとを想って歌います」と、それまで歌っていた“クラシック用”の歌声から、地声に完全に切り替えて歌ったアンコール曲は「se eu adivinhasse que sem ti」。ハスキーとも言える声で噛みしめるように、ギターとピアノを伴って歌われる、情緒的旋律を伴ったカマリーナの故郷の歌は、会場全体の観客の心を鷲掴みにしていた。

 その精緻で、正確に磨き上げられたきらめく歌声はもちろんのこと、演劇的素養と地声での、飾らない声の魅力をも大いに披露したカマリーナ。バロック歌唱コンクールで1位を獲得し、モーツァルトやハイドンの作品を中心に活躍の場を広めているが、折しも世界的歌手であるバーバラ・ヘンドリクスのジャズ・ステージが大きな話題となっているように、クラシック歌手の“もともと背景に持っているジャンル”での活躍も注目されている昨今、今後の活動のフィールドの広がりも含め期待が高まるステージとなった。 text:yokano

◎公演概要
【ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2018 UN MONDE NOUVEAU― モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ】
2018年5月3日(木・祝)、4日(金・祝)、5日(土・祝)
丸の内エリア(東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町)
池袋エリア(東京芸術劇場・池袋西口公園、南池袋公園)
約400公演(うち有料公演 丸の内エリア125公演、池袋エリア53公演)
チケット:一般発売中

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