2018/05/05
フランス発のクラシック音楽フェス【ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2018】が5月3日からスタートし、同フェス初出演となる老舗、イ・ムジチ合奏団がホールCにて公演を行った。
ローマ聖チェチーリア音楽院の俊才たちが12人集まり、11人の弦楽器奏者+鍵盤奏者1という昔日の宮廷楽団のような編成でイ・ムジチ合奏団を結成したのが1951年。折しもヴィスコンティ、ロッセリーニ、フェリーニといった映画監督たちが続々、敗戦間もないイタリアから世界的傑作を世に送り出していた頃だ。映画も音楽もアメリカ一辺倒の時代…と思いきや、さすがは古代に遡る劇場文化を誇る国。映画やオペラは圧倒的に強かった。イ・ムジチ合奏団はその一方で、オペラのような“歌”でなくてもイタリア発の音楽がいかに格違いかを実証してみせた。とくに数百年前のバロック宮廷音楽の世界では、イタリアこそが欧州でも最高の音楽を産する地とされていたところ、その頃の作品の演奏は彼らの得意中の得意。ヴィヴァルディ「四季」のレコード(何ヴァージョンかある)が彼らを有名にし、日本もその名演に熱狂した。
それから数十年。イ・ムジチ合奏団といえば“昔ながらのバロック演奏”の代名詞のように言われるが、実はメンバー交代や新演目の取り込みを続け、常に自分たちをアップデートしつづけてきたのだ。“新しい世界へ”をテーマに掲げた今回のラ・フォル・ジュルネTOKYO初日のCホールは、そんな彼らがバロックを離れ、1900年前後のロマン派・近代音楽に特化したプログラムで幕を開けた。
ドヴォルザークやバルトーク、ショスタコーヴィチら有名作曲家たちのかたわら、A.フィンツィ(1897年生まれのユダヤ系イタリア人、カルト的ファンの多い英国人G.フィンジとは別人)やシニガリア(サティやR.シュトラウスと同世代、ウィーンやプラハで研鑽を積んだイタリア人でやはりユダヤ系)…といった知名度の低い作曲家の小品。といっても双方とも予備知識のいらない、優美なリズムやメロディに惹き込まれる名品だった。「うちの庭でけさ取れた珍しい野草を前菜にしてみたのですが、おいしいでしょう?」と得意げにほほ笑む料理人たちのように、イ・ムジチ合奏団は妥協のない演奏で作品の味わいを最大限に引き出してみせる。
現首席ヴァイオリン奏者アントニオ・アンセルミと古参チェロ奏者ヴィート・パテルノステルは存分にヴィブラートをかけて表情をつくるが、他のメンバーはむしろストレートな音色に徹して主旋律の引き立て役に徹してみせるなど、間近で見ればこそ面白い奏法スタイルもよく見えた。緩急あざやかな音作りの頼もしさはさすが、老舗ならでは。最後のバルトーク作品(弦楽合奏版)では、民俗音楽のミュージシャンたちさえ思わせる妖艶かつドラマティックな音使いで貫録を見せつけた。アンコールのピアソラ「リベルタンゴ」とともに会場を沸かせた痛快選曲だった。Text:白沢達生
◎公演概要
【ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2018 UN MONDE NOUVEAU― モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ】
2018年5月3日(木・祝)、4日(金・祝)、5日(土・祝)
丸の内エリア(東京国際フォーラム、大手町・丸の内・有楽町)
池袋エリア(東京芸術劇場・池袋西口公園、南池袋公園)
約400公演(うち有料公演 丸の内エリア125公演、池袋エリア53公演)
チケット:一般発売中
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