2018/04/22
ピリオド楽器によって作曲家が生きた時代の響きの再現を模索する動きは、長年バロックや古典派をその中心的な対象としてきた。しかしいまやそのレパートリーは、ロマン派は言うに及ばず20世紀の音楽にまで広がりをみせている。世界的に話題をさらい、高い評価を得た『ダフニスとクロエ』の録音から1年、初演当時の楽器と奏法にこだわったフランソワ=グザヴィエ・ロトと、その手勢レ・シエクルによるラヴェル録音の第2弾も、そうした潮流の中に位置づけられる。
アルバムの構成は『マ・メール・ロワ』とクープランの墓』というポピュラーな2作で、若き日の序曲『シェエラザード』を挟んでいる。いずれもピアノと密接な関係がある3曲は、ペローのおとぎ話に着想を得た『マ・メール・ロワ』から、やはりメルヘンチックで幻想的でありつつ異国情緒趣味も既に顔を覗かせた、古典的形式の『シェエラザード』を経由し、偽古典的様式美えを備えた『クープランの墓』へと接続されている。このプログラムからして、心憎いまでの配慮がなされている。
なお『マ・メール・ロワ』は、まずピアノ連弾曲として成立した後に管弦楽組曲版に編曲され、それから曲順を変え、新たな2曲と4つの間奏曲を加筆したバレエ音楽、という3種がある。この盤で演奏されているのは、最後のバレエ版である。
ロトとレ・シエクルのコンビが生み出す響きは、ゴージャスなモダンオケの質感とは若干異なっていて、管楽器はざらついた手触りを感じさせたり、弦楽器にしても多少くすんだ風合いがあるが、不自然さや窮屈さを感じさせることはあるまい。むしろ現代のオケでは時に際立ってしまう刺々しさやけばけばしさといった要素と無縁で、ふくよかなぬくもりとなめらかさを湛えている。
奏者たちの技巧的水準も高く、それぞれのキャラクターが立っている。『マ・メール・ロワ』ならパヴァーヌでのフルート、美女と野獣のバソン、『クープランの墓』ではプレリュードのオーボエやフォルラーヌのファゴット、メヌエットのクラリネットにリゴードンのトランペットなどなど、とりわけ管楽器に存在感がある。
その一方で内声部の処理もぬかりなく、どこかのパートが必要以上に突出したり、逆に埋没もしないために、立体感と重層性も併せ持つ。全てのメンバーが心憎いまでの精緻なニュアンスづけにこだわることで、結果として生み出されるのは、驚くほど情報量の多い音楽だ。ロトらしい躍動感のあるリズム処理も心地よい、ヴィヴィッドな生彩にみちた刺激的な1枚である。このシリーズからは、今後も目が離せそうにない。Text:川田朔也
◎リリース情報
ラヴェル 『マ・メール・ロワ』、『シェエラザード』、『クープランの墓』
フランソワ=グザヴィエ・ロト指揮
レ・シエクル
HMM 905381 3,013円(tax in.)
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