2018/04/03
まるでクルクル回るメリーゴーラウンドのようなトゥインクル感覚!
1996年に堀込高樹と泰行の兄弟2人で結成されたキリンジ。もはや20年以上のキャリアを重ね、日本のポップ・ミュージックの“アルチザン”として確固たる存在感を確立している彼らだが、ここ数年はコンポーザーの1人でありリード・ヴォーカルを務めていた弟・泰行(2013年)や、グループになってからのメンバーであるコトリンゴ(17年)の脱退といった紆余曲折に遭遇し、ちょっとした試練も経験してきた
しかし、心機一転。高樹を中心とする5人体制でのサウンドに磨きをかけ、以前にも増して純度の高いポップ・ナンバーを演奏する“バンド”として、約2年ぶりに『ビルボードライブ東京』のステージに上がった今宵。経験をチャンスに変えてきた高樹にとっては、まさに 第二期 “KIRINJI”への煌びやかなステップ・アップ。僕たちが感じていた一抹の不安を瞬時に払拭してくれる、ヴィヴィッドなパフォーマンスを披露してくれた。
エフォートレスな雰囲気でステージに揃ったメンバー全員が楽器を奏で始めると、イキイキとした音が会場に広がっていく。初っ端に鳴らした音は、東京という街の温度や湿度や匂いや色彩、そして雑踏を行き交う人々のメンタリティを鮮やかに切り取っていく。その甘酸っぱくほろ苦いテイストは、まさにKIRINJIならでは。他のバンドには決して表現できない都会の重層的な心の機微が、雨上がりの並木道の窪みにできた水溜まりに映るように揺らめく。
季節に合わせて「春」をテーマに新旧のナンバーをチョイスしたセット・リストは、コアなファンにも聴き応えがあったし、新しいリスナーにも優しい、とても親しみやすい空気を発している。よく練られたアレンジと心地好い体温を感じさせる演奏が雰囲気をやわらげていった。
泰行の脱退後も14年に『11』、16年に『ネオ』と、良質な作品を順調にリリースしてきたKIRINJI。今回は渡辺シュンスケ(p/key/back.vo)と矢野博康(perc/manipulator)をサポート・メンバーとして迎え、もはや“鉄壁”と言ってもいい布陣で臨んだステージ。彼らの意気込みがひしひしと伝わってくる、チャーミングながらも密度の濃いライブだったことは容易に察しがつくだろう。
また同時に、温かい声援を送るオーディエンスの振る舞いも美しい。20年にわたり、彼らを応援してきたファンがたくさん詰めかけ、文字通りステージと客席が一体となった親密感が溢れるライブ空間に。ネクタイを緩めたビジネスマンや、ノーブルなワンピースを着こなしたOLがくつろいだ表情でステージを見つめている。もはや“KIRINJI SOUND”としか表現のしようがない、センス抜群の閃きと職人芸的な細やかさによって紡がれる音が、ハッピーな空気を会場に振りまいていく。僕らは質の高いポップ・アーティストたちと同時代を生きているのだという事実に“奇跡”を感じる、このワクワク感といったら!
加えて、今回のライブで印象的だったのは、バンドとしてのグルーヴ感が以前とは比べものにならないほど官能的になっていたことだ。楠 均(dr/perc)と千ヶ崎 学(b)が繰り出す生命感溢れるリズムは、まるで70年代のソウル・ミュージックをなぞったかのように躍動的。そのコクのあるノリが聴き手の身体に着実に浸透し、演奏曲へのシンクロを心地好く促す。その豊かな色彩感は、特筆に値するほど。彼らの楽曲が決して子供騙しのものではなく、アダルトなムードを携えたハイブロウなシティ・ポップであることがシャープに伝わってくる。まさに、ベテランの成せる業と言っていいだろう。
中盤からはバート・バカラックのカヴァーや、シングル・カットする予定だという新曲などが畳み掛けるように繰り出され、次第にライブは佳境に――。弓木英梨乃が客席を練り歩きながら歌ったり、田村玄一がアグレッシヴなラップを披露したりと、これまでになくダイナミックなパフォーマンスを展開。カジュアルなエンターテインメント感も溢れる、彼らの最新のサウンドをたっぷりと味わうことができた。
まさに2018年の“NEW BAND”KIRINJI! と声を大にしたくなるほどキラキラしたステージ・パフォーマンス。ポップなメロディがめくるめく今回のライブは東京で翌日にも、大阪では29日に繰り広げられた。新たなライブ・サーキットに突入したと言っても過言ではない、バンドとしての彼らの頼もしい演奏は、ちょっと眩しい春の陽射しのように僕の気分を沸き立たせてくれて、もう1度大切なパートナーと一緒に体験したいと素直に感じた。なぜなら「至福の時間」を過ごせるに違いないから。だから、近いうちに必ず!
◎公演情報
【KIRINJI PREMIUM 2018】※終了
2018年3月26日(月)~27日(火)ビルボードライブ東京
2018年3月29日(木)ビルボードライブ大阪
Photo:立脇卓
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。六本木は早くも桜が散り始めた3月末。心も身体も軽やかに弾むこの時季は、透き通った空気に想いを馳せて、まだ寒さが残る北海道産の白ワインが“気分”。例えばリースリングやシルヴァーナーはもちろん、ケルナーやツヴァイゲルトなど、冷涼産地由来の葡萄品種がピッタリ。まだ40代前半くらいの若い造り手が新しい発想の下、愛情を込めて栽培や醸造を行っているのも嬉しい。今が“旬”の日本ワインの中でもイチオシのクオリティ。青い果実を連想させるアロマとリンゴ酸による爽やかさが組み合わされた繊細なストラクチャーを楽しみながら、春野菜や白身魚などと共に、ぜひ!
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