2018/03/26
熊木杏里が3月24日に東京・東京国際フォーラム ホールCにてワンマンライブ【An's meeting ~ホントのライブベスト版~ 15th篇】を開催した。
ベスト盤を軸にライブを展開することはあっても、“ライブのベスト版”と銘打ってステージを構成することはそう多くはないのではないか。文字通り、今もっともベストと思える楽曲を集めてのライブ。デビュー15周年の締めくくりにして16年目の始まりという節目、 タイミングは絶好だ。
3月24日、東京国際フォーラム ホールC。会場入り口では、驚いたことにこの日のセットリストが“ご自由にお持ちください”という、なんともゆるいスタンスでオーディエンスの手に渡っていた。言うまでもなく異例のことだが、15年間のベストをファンと共に楽しみたいという熊木杏里の希望あってのことで、リストには本人手書きのメッセージとイラスト、そして「ダブルアンコール欲しいなぁ~(笑)」なんていうかわいらしいリクエストも。
それにしても、見事なベスト版だ。これまでに発表した作品が新旧まんべんなくセレクトされ、それでいてライブ全体の構成にメリハリが効いている。熊木のデビューのきっかけとなった、テレビ番組のオーディションで合格を勝ち得た「時計」で始まったライブは、彼女の15年間をそのステージに如実に映し出していった。風が吹き抜けるサウンド、景色を描くメロディ、そして唯一無二のやわらかな歌声。その音楽は水彩画みたいに少しずつ色を重ね、ゆっくりと聴き手の心に滲んで、気づけばどうにも離れがたくなっている。この日のセットリストに散りばめられた楽曲たちも、会場を埋め尽くしたオーディエンス一人ひとりの人生に作用して、きっと多様な輝きを放っているのだろう。
サウンドプロダクションも極上だ。勝手知ったる馴染みのバンドと共に、息づかいまで丸ごとパッケージするかのような丁寧な演奏が続く。中盤では、昨年“三姉妹”としてアコースティックツアーを行ったHALNA(Ba)と高田有紀子(Key)も登場し、客席を大いに沸かせた。また、同じく昨年発表した麻枝准とのコラボレーションアルバムから、タイトル曲の「Long Long Love Song」を卓越したコーラスワークで聴かせたり、中国でのライブ活動の賜物でもある中国語バージョンの「朝日の誓い」を披露したりと、熊木自身のボーカリストとしての成長を垣間見せる場面も多々。
「私は全然、まだまだこれからです。15年経ってもこうして曲を聴いてくれるみなさんと少しずつ、一緒に歩いていけたら素敵だなぁって思います。感謝しています。ありがとうございます」
アンコールで歌った「新しい私になって」は、そのまま熊木の決意表明のようでもあった。シンガソーングライターという職業は、往々にして人生と音楽を切り離せないからこそきっとどんどん面白くなる。事実、この日歌った新曲「心ごと - U時間 -」は、熊木の透明感あふれる歌声と旋律をすべるようなボーカリゼーションが絶品。これから制作されるだろう作品への期待感がおのずと高まる1曲だった。少し先の話だが、12月25日には日本橋三井ホールでのクリスマスライブも決定。熊木杏里の今までと、そしてこれからを、たっぷり感じさせてくれた一夜のステージに、客席からの拍手はいつまでも止まなかった。
「みんな大好きだよ!ありがとう!」最後の最後にそう叫んで、ステージに倒れ込むように正座して、しばらく頭を垂れていた熊木。思わず頬をつたった嬉し涙を男前にグイッと拭って、いつもの笑顔を見せたら、16年目の歌うたい人生の始まりだ。とことん明るいだろうその未来を、私たちもまた、楽しみにしていたい。
text:斉藤ユカ
photo:森 久
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