2018/03/26
1993年のデビュー・アルバム『プランテーション・ララバイ』は衝撃的だった。ジャズやヒップホップ~ファンク等、生楽器で演奏される70年代に回帰したネオ・ソウルの歴史は、このアルバム、この人ナシでは語れない。1996年の2ndアルバム『ピース・ビヨンド・パッション』も素晴らしく、中でもニューソウルを再現したビル・ウィザーズ「フー・イズ・ヒー?」のカバーは絶品だった。
本作 『ヴェントリロクイズム』は、70年代ではなく、 80年代の楽曲を中心としたカバー・アルバム。ほとんどカラオケに近いような駄作を発表するアーティストも多いが、どの曲も良い意味で原型をとどめていない、ミシェル・ンデゲオチェロ独自の世界観・音楽性が現れている。 マイナー過ぎず、かといって売れ線を狙った選曲でもない。
ヒップホップのサンプリング・ソースとしても人気の、リサ・リサ・アンド・カルトジャムの 「テイク・ユー・ホーム」(1985年) は、 ミシェルのハミングが美しく舞う、ミニー・リパートン風のソウルフルな仕上がりに。 ジャネット・ジャクソンのブレイク作『コントロール』(1986年)からは、アルバムのラストを飾る 「ファニーなひととき」が選ばれている。 シングル・カットされていないこの曲を選ぶあたり、相当思い入れがあったのかもしれない。
90年代からは、ガールズ・グループの代表格= TLCの全米No.1ヒット「ウォーターフォールズ」(1995年) をカバー。ゆらめくグルーヴはそのままに、T・ボズとチリでは表現できない情感豊かなヴォーカルで魅了する。一部ファンの間では最高傑作と囁かれる、プリンス&ザ・レヴォリューションの『パレード』 (1986年)収録のフォーキーなバラード曲「スノウ・イン・エイプリル」も、 繊細で幻想的なアコースティック・サウンドに乗せて歌う、ミシェルのボーカル・ワークが素晴らしい。
ドライブや部屋でまったり聴きたいアル・B・シュア!の 「ナイト・アンド・デイ」(1988年)と、フォース・エム・ディーズの激甘メロウ「テンダー・ラブ」(1986年)は、原曲のエロさを抑えドリーミーな雰囲気を醸す。アフリカン・ミュージックのようなアレンジに仕立てた、ラルフ・トレスバント(ニュー・エディション)の「センシティビティ」(1990年)や、ファンク・ユニット=ザ・システムズのスピード感あるファンク・チューン 「ドント・ディスターブ・ディス・グルーヴ」(1987年)は、生音で演奏すると全く違う曲調に聴こえる。
ミシェルが影響を受けたであろう、ティナ・ターナーの代表曲 「プライヴェート・ダンサー」(1984年)は、ティナの力強いボーカルとは対照的に、触れたら壊れてしまうような繊細な歌い方で丁寧にカバーしている。シャーデーの大ヒット曲 「スムース・オペレーター」(1984年)は、ジャジーな原曲とは違うロックぽいアレンジに。 好き嫌いは分かれるかもしれないが、 あのシャーデーと区別をつけるには、これくらい変化を与える必要があるだろう。
カバー・アルバムというと「遂にここまで落ちたか……」と落胆するファンも多いが、本作 『カヴァーズ~ヴェントリロクイズム』 は、カバーといえど完成度は高く、往年のファンもガッカリするような作品ではない。ワンランク上のBGMをお探しの方にもオススメ。
Text: 本家 一成
◎リリース情報
『カヴァーズ~ヴェントリロクイズム』
ミシェル・ンデゲオチェロ
2018/3/23 RELEASE
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