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2018/03/20

第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール、開催決定

 今年9月にポーランド・ワルシャワで行われる第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールの開催に向け、その公開記者会見とプレゼンテーション、ガイダンスが、3月13日にトッパンホールで行われた。

 1935年の創設以来、ポリーニ、アルゲリッチ、ツィメルマンなど錚々たる名演奏家を輩出してきたショパン国際コンクールは、世界で最も有名な音楽コンクールである。そのピリオド楽器版のコンクールを開催するにあたり、国立ショパン研究所と、ショパン・ナショナル・エディションなどを発売しているポーランド音楽出版社から3名が来日。記者会見のプレゼンテーションには、1980年度ショパン・コンクールの覇者で、自身もピリオド楽器での演奏・録音経歴があり、今回審査員を務めるダン・タイ・ソン、後半のガイダンスには、我が国のフォルテピアノ奏者、小倉貴久子が登壇した。

 モダンとピリオド双方のコンクールを主催することは、2001年の国立ショパン研究所設立当初からの活動理念と合致しているという。今回目的とするのはピリオド楽器の素晴らしさを喧伝することではなく、ピリオド楽器によるショパン演奏を普及させ、「ショパンのリアルな姿」を伝えることである。「ショパンの作品は彼が演奏した楽器との強い結びつきがあり、切り離すことが難しい。作曲を行った楽器に近い響きをもつ楽器を奏することによってこそ到達できる地点があり、モダン楽器とピリオド楽器の2つのコンクールは相互補完的なものといえるでしょう」。

 コンクールは、まずDVD映像による予備審査で候補者が30名までにふるい落とされてから、本国での予選へ進む。ファイナルは18世紀オーケストラが伴奏を務めるピアノ協奏曲などで行われ、9月13日の夜に優勝者が決定する。審査員にはアンドレアス・シュタイアー、アレクセイ・リュビモフをはじめ、トビアス・コッホ、ニコライ・デミジェンコ、ネルソン・ゲルナー、エヴァ・ポブヴォツカ、ヤヌシュ・オレイニチャクなどが名を連ねている。

 ナショナル・エディションの校訂に加えて楽器コレクションにも力を入れるショパン研究所は、ウィーンデビュー時に弾いたグラーフ、フランス移住後に愛奏したエラールとプレイエル、あるいはショパンが生存した期間に制作された、ウィーン式アクションを搭載したブロードウッドのようなピリオド楽器、もしくはそのコピーを所有しており、コンクールに当たって、それらはもとより、ヨーロッパの修復家やコレクターたちから貸与された楽器が集まる。その中の主催者側が選定した楽器群から、参加者が演奏する楽器を選ぶことになっている。

 コンクール概要の発表後、『ショパンと彼のヨーロッパ』というシリーズでピリオド楽器での演奏を披露し、録音もあるダン・タイ・ソンが舞台に現れ、ピリオド楽器がピアニストに与えるインスピレーションについてのトークとデモンストレーションを行った。

「モダン楽器とは懸け離れたピリオド楽器に初めて触れたときは、パニック状態に陥りました」と振り返ったソンは、時折舞台上に並べられた、モダン楽器であるスタインウェイと1848年製プレイエルとエラールで同じパッセージを弾き、その違いを実例を示しながら語る。

「モダン楽器を演奏する場合は全身を使いますが、ピリオド楽器では指先のコントロールが極めて重要です。モダン楽器は大ホールで演奏できるよう変貌を遂げてゆきましたが、ショパンはインティメートなサロン、あるいは中型までのホールで演奏していました。材質も、ピリオド楽器は大半が木でできていますから、暖かい音色です。サイズは小さくて脆く、音の減衰も早い。チューニングも低めですね」。

 そして「モダンは歌い、ピリオドは語るんです」と繰り返した。「歌曲では、歌うことも大事ですが、歌詞を伝えることもまた重要です。ピリオド楽器は明確にアーティキュレーションし、語ります。タッチもペダリングも違いますが、ショパンの真実の響きはモダン楽器だけではなく、ピリオド楽器を通じてわかります」。

 後半のプレゼンテーションでは、小倉貴久子が、ウィーン式アクションにはじまり、フレームやハンマーの材質差、連打音を可能にしたダブルエスケープメント、平行弦と交差弦といった、モダン楽器とピリオド楽器との違いをコンパクトに紹介した。

「ショパンはエラールとプレイエルを愛奏しましたが、気分が乗った時にプレイエルを弾いたと言われています。プレイエルは極めてデリケートなタッチを要求する楽器ですが、逆にいえばそういう繊細なタッチに敏感に反応します」。

 どの音域でもブリリアントに鳴る「均等性」を志向したモダン楽器に対し、ピリオド楽器では音域による音色の特徴があり、そして音が減衰しやすいタッチだけではなく、モーツァルトやベートーヴェンから遠くない時代の、ショパンの様式感の理解が重要だ、と説明し、ショパンが書いた細かいフィギュレーションの必然性はモダンだけを弾いていたらわからないかもしれない、と語ってから、実例としてエキエルのナショナル・エディション版ノクターン第2番aの全曲演奏を披露してくれた。

 ショパン国際ピリオド楽器コンクールの模様は、2015年のショパン・コンクールと同じように、高品質の音と画像で全世界に配信される予定だ。Text:川田朔也

 

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