2018/03/02 18:00
フランス・ジャズ界最高の栄誉「Victoire du Jazz」「Django d'Or」など数々の栄誉に輝き、現在進行形のヨーロッピアン・ジャズを更新しているピアニスト「Giovanni Mirabassi」。2015年にはスタジオジブリ作品をはじめとする世界的に評価の高いアニメソングの数々をピアノ・トリオでレコーディングした「Animessi」を発表したことは記憶に新しい。そんなMirabassiが、自身のレギュラー・トリオを率いて2月下旬から来日公演をスタートした。しかも今回は彼自身がトータル・プロデュースし、作品を作り上げてきた歌姫 Sarah Lancmaを迎えたスペシャルステージ。
Mirabassi自身、「感情を最大限に表現する技術を持つ、稀有な存在」と評するSarahと共に、どんなステージを繰り広げたのか?東京公演を経て、更に円熟味を増した大阪公演の模様をレポートする。
客電が落ち、大きな拍手の中登場したのは、Giovanni Mirabassi、BassのGianluca Renzi、そしてDrumsのGene Jacksonの三人から成る「Giovanni Mirabassi Trio」だ。まずはMirabassiが鍵盤に指を乗せ、音を紡いでいく。哀愁を帯びた旋律が、緩やかに舞う。儚くも、それでいて凛とした佇まい。その一音一音の美しさに、思わずため息。やがてリズムが重なり、旋律が鮮やかに色づいていく。まずは「My Funny Valentine」からスタート。誰もが知るスタンダードナンバーが、彼らの演奏によってまた新たな物語を描き始める。続いては「Animessi」にも収録されていたスタジオジブリ作品「ハウルの動く城」から「人生のメリーゴーランド」。ライブならではのダイナミズム、インプロヴィゼーション、遊び心。それらを包括して生み出されるサウンドは、とても軽やかだが、他者の追随を許さない、圧倒的な存在感を放っていた。
残響が止んでも、消えることのない音の気配に、一瞬フロアが水を打ったかのように静まり返る。一瞬の後、大きな拍手と歓声。この素晴らしいトリオにVocalが加わることで、どんな化学反応が生まれるのか?そんな観衆の期待が会場中に満ちる中、Sarah Lancmaがステージに立った。
巨匠Quincy Jonesが「ジャズ界に現れた真の新しい歌声」と評したのは彼女が23歳の時。近年はGiovanni Mirabassiプロデュースのもと、アルバムを制作し、今年に入って3作目のアルバム「A Contretemps」を発表したばかりのSarah。今回が初めての来日公演という彼女の佇まいはまだ29歳と思えぬ程、堂々としており、寧ろGiovanni Mirabassi Trioの存在感に新たな彩りを加えたという印象だ。
Renziが弦をつま弾き、リズムと旋律が重なっていく。まずはSarahの最新作「A Contretemps」から「I Want Your Love」。音源では日本のフリューゲルホルン・プレイヤーであり歌い手でもあるTOKUを迎えたナンバーであるが、この日はSarah一人で披露。アップテンポでポップさも兼ね備えたジャズナンバーを、爽やかに、それでいてスモーキーに歌い上げる。
1曲歌い上げた後、Mirabassiの紹介を受け、「アリガトウゴザイマス」とはにかむ姿も実にキュート。続いては「Ca N'a Plus D'importance」うねりを帯びた情感豊かなソロパートを経て、更に艶やかさを帯びる歌声。共に作品を生み出してきたこその一体感に、感嘆する観衆。同じ時、空間の中、同じリズムを共有しながら、それぞれが奏で出す旋律はそれぞれの個性を鮮烈に放っている。だがそれが重なっていくことでSarahの歌声を彩る極上のアンサンブルとなり、観衆を魅了していくのだ。
それは、Paris、New York、そしてTokyoと、それぞれのフィールドで活躍する彼らだからこそ為し得るパフォーマンスかもしれない。ステージは、昨年タイで録音されたという最新作「A Contretemps」からのナンバーをメインに据え、進行していく。ジャズのトラディショナルを踏襲しつつ、エキゾチックかつファンタスティックなニュアンスを帯びた解釈で、まさに彼らにしか生み出し得ない最先端のジャズを展開していく。
クライマックスは「Wrong or Right?(Sara's Blues)」。タイトル通り、ブルージーでありながら初々しさも感じさせる甘い歌声に魅入られていく。極上の時間も終わりの時が近づいている、そんな一抹の寂しさが胸をよぎり始める。本編ラストは?愛し合ったことを"という邦題を持つ「On S'est Aime」。Sarahが日本語詞で歌い上げる一曲だ。「出会ってそのまま恋に落ちたの」という歌い出しを聴いて、この甘美なひとときの終焉を感じ、刹那さと切なさを掻き立てられる。やがて燃え上がる恋のように激しさを帯びる間奏、そして静かに吐息を落とすように迎える終焉の時。まるで美しい恋物語を垣間見たような気持ちにすらなった。
アンコールは最新作「A Contretemps」の1曲目でもある「Don't Lose Me」。トリオならではの躍動感のあるアンサンブルに、Sarahの表情豊かな歌声が絡まり合う。演奏が終わり、解き放たれたかのように惜しみない拍手喝采を送る観衆。確かな技術、経験値を擁しつつ、飽くなき音への好奇心を忘れない「Giovanni Mirabassi Trio」。そして初めて訪れたと言いう日本で鮮烈な印象を刻み付けたSarah Lancma。今後彼らが奏で出す音楽がどのように育っていくのか、とても楽しみである。
改めて、「ジャズ」という」音楽の懐の深さを実感した夜だった。
Text by Yukari Sugimoto
Photo by Kenju Uyama
◎公演情報
【ジョヴァンニ・ミラバッシ・トリオ featuring サラ・ランクマン】
2018年2月28日(水)※終了
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