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2018/02/28 12:00

初来日公演が間近に迫るUSインディ界の若き天才Ty SegallのLA公演をレポート

 長年、来日が切望されていた米ロサンゼルス出身のシンガーソングライター、Ty Segall(タイ・シーガル)。弱冠30歳ながら、これまでリリースしたアルバムは9枚にも及び、去年セルフ・タイトルのアルバム(2008年のデビュー・アルバムも同じくセルフ・タイトル)を発表し、その1年後の今年1月26日に19曲入りのフル・アルバム『Freedom’s Goblin (フリーダムズ・ゴブリン)』をリリースした。ピッチフォークが8.1と高得点をつけたこのアルバムは、サイケデリックからフォーク、パンク、ジャズと多様なジャンルの曲が収録されており、彼の音楽的センスと才能を堪能できる。

 また昨年は、サイド・プロジェクトの一つでもあるバンド、Fuzzのメンバーのチャールズ・ムサートとEx-Cultのボーカル、クリス・ショーと組んだガレージ・パンクバンドGØGGSとしてでもアルバムをリリースしており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。そんな彼が去年からツアーを共にしているThe Freedom Band (ザ・フリーダム・バンド)とともにアルバム・リリース日の夜から3夜連続でLAのライブハウスで行った貴重なライブレポートをお届けする。

 会場はダウンタウンにある3000人規模のライブハウス。公演が発表されるや否やチケットは即ソールドアウトになり追加公演も同様となった為に、新たにもう1公演追加され結果3夜連続の公演となった。開場時間の数時間前からすでに100人くらいの列ができており、LAでの人気のすごさが伺える。会場に入ると物販のテーブルがあり、これまでリリースした全てのレコードとCD、本会場限定のポスター、数種類のアパレル、そして目玉でもあるこの日発売されたばかりの最新作『Freedom’s Goblin』のレコード、CDとカセットテープ、同じくアルバム・タイトルのロゴでTシャツなどにプリントできる限定品のステッカーというユニークな商品が販売されていた。

 フロアはすでに沢山の人で埋め尽くされていて、男女比率は7:3で圧倒的に男性ファンが多く、年配の観客も多く来ていた。前座のバンドが終わり、ステージチェンジの時間になるとタイを始めバンドメンバー自らがステージに出てセッティングを始めた。特にタイはギターのチューニングに時間をかけていて、去年米ブルックリンのギターショップで手に入れたというトラヴィス・ビーン TB1000Sを何度もセッティングし直したり、アンプの前でアップしたりしていた。そんな中でも彼は最前列の数人のファンに声をかけられると、気さくに対応し握手やサインに応じていた。

 セッティングが終わりしばらくすると、照明が落とされ青いライトのみがステージを照らす中メンバーが登場。前述したザ・フリーダム・バンドのメンバーは、ギターのエメット・ケリー (The Cairo Gang)、 ドラムのチャールズ・ムサート(FUZZ、GØGGS)、キーボードのベン・ボーイ(Harvey Mandel)、そしてマイカル・クローニン(Wand、Moonhearts、Meatbodies)。マイカルはソロとしても3枚のアルバムを発表しており、タイとは長年一緒に共に演奏してきている。いづれも卓越した演奏技術を持つまさにスーパーバンドだ。ステージ上でのそれぞれの衣装は同じカラーで統一されていて、毎回異なるカラーを取り入れている。筆者が去年観たフェスティバル【Desert Daze】では全員ブルーの衣装だったのだが、今夜は白で統一されている。

 数秒間の静寂の後に、キーボードの美しいソロが流れた。新曲「Alta (アルタ)」だ。先行シングルだったこの曲は、去年のツアーですでに披露されていて、ファンもシンガロングでセッションする。ベンのキーボードの音色とタイのボーカルのフレーズの後、バンドの演奏が始まる。最初の静寂から一転ダイナミックなプレイに観客から歓声が上がる。エメットのギターソロにタイのバッキング。タイは体を逸らし、とてつもなくワイルドで高速なグリッサンド・プレイを披露。そこにドラムのチャールズの絶妙なタム回しが加わり、後半はスピード感とアグレッシブな曲調へ。即興ジャム・セッションとなり、そのまま次の曲「Fanny Dog (ファニー・ドッグ)」へとなだれ込んだ。ドラムのチャールズとベースのマイカルのリズム隊がグルーヴ感溢れるこの曲をコントロールするこの曲では、マイカルのアグレッシブなベースプレイと、ベンのキーボードとエメットの早弾きのセッションが見ものだった。終盤でタイが体をのけぞったり頭を振ったりしながらプレイするのに対し、エメットは黙々と技巧派で超絶なギターテクをこれでもかと見せつける。ライブ序盤でメンバー全員の職人技を目の当たりにし、すでに興奮が最高潮に達してしまったという恍惚の表情の観客達。

 次は照明が落とされドラムとストロークに合わせ、エフェクターによって電子音的に変化したベースの突き抜けるようなプレイが重なり始まった「Every 1’s a Winner (エヴリィ・ワンズ・ア・ウィナー)」。この曲は、70年代に活躍したイギリスのバンド、Hot Chocolate (ホット・チョコレート)のカヴァーで元曲はファンキーでソウルフルな曲調なのだが、彼らはそれをアップテンポでサイケデリックにアレンジし、なおかつエフェクターを巧みに使い、擬似的な倍音とサスティンをプラスしライブでの重力を持った最高にクールな曲に変化させている。タイはいつもよりも興奮気味な感じで観客を煽りながらハイトーンのシャウトを繰り返し、観客のボルテージは序盤から早くも最高潮に達してしまった様子だ。

 続いては、出だしのベースの機械的な音とドラムのスネアのリズムからゾクゾクさせられる「Despoiler of Cadaver (ディスポイラー・オブ・カダヴァー)」。この曲ではタイ愛用のエフェクターであるデス・バイ・オーディオの改造ファズ・ウォーから轟音の光線を発射しまくり、ギターソロでは強烈に歪んだノイズを撒き散らし、ファズに取り憑かれたギタリストにしか思えない。「Love Fuzz (ラブ・ファズ)」という曲まで作っているのだから。そんな激しいアクションを続けながら緻密で正確なプレイの連続のタイに対し、控えめだが名リフを生み出しているエメット。2人はブルージーなフィーリングに壮絶速いハンマリングのオンとオフと交互に効かしながら、曲に凄みとパワフルさを印象付ける。AC/DCのアンガスとマルコムを見ているようだ

 その後キーボードのベンも上記の2人に負けじとネオクラシカルな超早弾きソロを披露。ギターアンプを通して破壊的な音を出したかと思えば、オルガンの音色で狂気の中に静寂をもたらしていた。そんな5人の超絶かつ変態プレイの連続に、観客も壊れまくりでモッシュ&クラウドサーフがライブ中ひっきりなしに起こっており、後半になるとステージに上がりダイブする人や、何人もの女性客もクラウドサーフィンで会場を盛り上げる。

 アンコールで出てきた彼らは、ジェームズ・ギャングからブラック・サバス、ツェッペリン、エアロスミスなど数フレーズのカバーをメドレー形式に演奏し、熟年のファンをも唸らせる。ラストは、ザ・グラウンドホッグスのカバー「Cherry Red (チェリー・レッド)」 だ。ブルース・ロックにハードロック要素を取り入れたこの曲を、さらにアップテンポでハードなものにして演奏。アレンジもきかせまくりで、出だしのチャールズのドラムに痺れる。ミニマルなドラムセットながらハイアットを巧みに操りジャズ・ドラマーのような、手数が多くダイナミックなドラミングでこの曲のグルーヴ感をより一層強くしている。会場も最高潮に盛り上がる中、バンドはまたもジャムに突入し2時間近くのステージを終えた。

 ほぼ全曲にアレンジとセッションを入れ音源とは違う音圧とダイナミックなパフォーマンス。ライブでの破壊力がハンパない。後半になればなるほど、その凄まじさは勢いを増し、狂気とも取れる狂ったような演奏は体の奥底からから突き上げるものを感じ、その後は痺れまくりだ。

 タイの圧巻のギタープレイは何と言ってもいちばんの見ものである。ブルースをベースにしながら絶妙なセンスでロックンロールに昇華させたり、ギターソロではディストーションを効かせまくりファズとアンプの飽和を見事に作り出す。かと思えば、カート・コバーンのようにパワーコードの中にジョン・レノンのメロディーを溶かすことができるのだ。彼のやってることが凄過ぎて始終圧倒されまくりだった。それを支えるフリーダムバンドのメンバー。それぞれが類い稀な演奏技術を持っていてベースのマイカル・クローニンは本業はギターの名手でもあり、ドラムのチャールズ・ムサートも別バンドではギターをプレイしている。まさに職人たちの共演といった感じだ。この超絶すぎるステージをぜひ来日公演で体感して欲しい。


Text & Photo:ERINA UEMURA

◎Ty Segall & The Freedom Band @ The Teragram Ballroom, Los Angeles (Jan 28, 2018)
Setlist
1. Alta
2. Fanny Dog
3. Finger
4. Squealer
5. Breakfast Eggs
6. Every 1’s a Winner (Hot Chocolateカヴァー)
7. Despoiler of Cadaver
8. Warm Hands (Freedom Returned)
9. The Only One
10. My Lady’s On Fire
11. The Main Pretender
12. The Crawler
13. One After 909 (The Beatlesカヴァー)
14. Loose (The Stoogesカヴァー)
15. (Vocal Solo)
16. Shoot You Up
17. Love Fuzz
18. Let Here Be Rock (AC/DCカヴァー)
19. Ghost
20. And, Goodnight (Sleeper)
21. Wave Goodbye (Ty Segall Bandカヴァー)

アンコール
22. カヴァー・メドレー
James Gang「Funk 49」
Black Sabbath「A Bit of Finger」
Black Sabbath「N.I.B.」
Black Sabbath「Cornucopia」
Led Zeppelin「The Ocean」
Aerosmith「Walk This Way」
The Troggs「Wild Thing」
The Kinsmen「Louie Louie」
Deep Purple「Smoke on the Water」
23. Cherry Red (The Groundhogsカヴァー)

◎リリース情報
『Freedoms Goblin (フリーダムズ・ゴブリン)』
タイ・シーガル
2018/2/14 RELEASE

◎公演情報
2018年3月1日 (木) 東京・代官山UNIT
2018年3月2日 (金) 静岡・Freakyshow
2018年3月3日 (土) 愛知・名古屋得三
2018年3月4日 (日) 大阪・CONPASS
INFO: http://www.dum-dum.tv/html/topic75.html

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