2018/01/10 11:15
荘厳な響きと精緻に組み上げられた重厚なリズム――。
バロック以来のヨーロッパの伝統を継承しながら、クラシカルな音楽要素をモダンなサウンドに展開してみせたPFMことプレミアータ・フォルネリア・マルコーニ。その思慮深くスリリングな音楽性は、ルネサンスのスピリッツを体現した、まさにイタリアならではのレガシーと自由な精神性に裏打ちされたもの。決してアメリカなどの“新興国家”からは出てくることのない、欧州独自の深い思考と黄昏のセンスが特徴的だ。躍動と斜陽のコントラストがニヒルにも感じられる彼らの音楽には、他からは得られないヨーロッパ特有のヘヴィネスが滲んでいる。それは自己に対する批評性に富んだ“袋小路感覚”とでも表現すればいいのか。
1970年に結成されて以来、幾度かの休止期間を経ながらも、着実に独自の音楽性を深めているPFM。同年代のプログレッシヴ・ロックのバンドと同様、彼らの音楽に対する発想やコンセプト、そして演奏技術は高い評価を受け、73年にはELPが主宰するレーベルからアルバムをリリース。フランスのアトールやシャイ・ロック、同国のゴブリンやバンコ、ニュートロルスなどと共に、長年にわたって“ヨーロピアン・プログレ”のムーヴメントを担ってきた。
昨年11月にリリースされた『Emotional Tattoos』を含め、これまで19作のオリジナル・アルバムを発表してきた彼ら。75年に初来日し、今世紀になってからはコンスタントに来日しているPFMだが、その度ごとに斬新なコンセプトのライブを披露し、コアなファンから熱狂的な支持を受けてきた。そして、今回。ファーストとセカンドで演奏曲が異なるステージを展開するという、まさにファン泣かせなプログラムを引っ提げてクラブ空間で演奏する贅沢なパフォーマンス。彼らにとっても、新たなキャリアが刻まれるライブに違いない。
意外にも最新作に収められた牧歌的な旋律で幕を開けたセカンド・ステージ。2人のドラムスとキーボードによって強化されたリズムはときに変拍子を刻み、鍵盤やヴァイオリンから発せられる大胆な転調を伴った音粒は鮮やかな色彩を伴う。ルネサンス絵画のように壮大で大胆な構成のサウンドは、例えば荘厳な教会で鳴らされても違和感がない。また、息をも衝かせぬ楽曲の展開は、各人の並々ならぬ発想力とテクニックを饒舌に語っていて、まさに面目躍如たるクオリティ。秀逸な才能を発揮してきたマウロ・パガーニを筆頭とする歴代メンバーの進歩的な精神が、今もグループの財産であり支柱になっていることが伝わってくる。これを“伝説”と呼ばずして、何と表現したらいいのか――。
7つのシルエットがほのかな光の中に浮かび上がる。そこに漂う甘美な退廃。地中海的な開放感が滲むエキゾティシズム。一瞬にして観客の心を鷲掴みにするシンフォニックで理知的なサウンド。そして徐々に翼を広げていくエモーションのうねり。骨太でダイナミックなビートを繰り出し、ときにはポップなメロディも織り交ぜながら聴き手をしっかり抱き込んでいく。会場いっぱいにゴージャスな響きが溢れ、「歓喜」と呼ぶにふさわしい空気がドラマタイジングされていく。高らかに謳われる欧州の栄光。そして没落――。まるで歴史を紐解いていくような、タイム・トラベルにも似た感覚が立ち上っていく。これは一種のイリュージョンと言っても差し支えないだろう。
楽器を操る7人の姿が不思議とヴィジュアル的なのは、複雑に場面展開していくサウンドとメンバーの動きがシンクロしているからか。演奏の進行と共に背筋の伸びた人影と硬質な音がイメージを1つに束ねていった。
屹立するインテリジェンスとエモーション。まさに“衝撃”と表現してもいい、圧倒的にエスタブリッシュされた80分のステージ。このコンセプチュアルなパフォーマンスは今宵も東京で、そして11日には大阪で繰り広げられる。「歴史的」と言ってもいい、PFM初のビルボードライブ・ツアー。このチャンスを逃してしまったら、後悔するのは確実なのでは?新春早々の“事件”を目撃できる奇跡を、ぜひとも堪能して欲しい。
◎PFM公演情報
ビルボードライブ東京
2018年1月9日(火)~10日(水)
1stステージ開場17:30 開演19:00
2ndステージ開場20:45 開演21:30
公演詳細>
ビルボードライブ大阪
2018年1月11日(木)
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
公演詳細>
Photo:Yuma Totsuka
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。いつになく厳寒の東京。重厚で発想力に富んだPFMを聴きながら、ぜひとも堪能したいのがイタリアの銘醸・タウラージ。アリアニコという地葡萄品種で造られた濃厚でふくよかな味わいは、長期熟成にも耐え得るもの。バローロやバルバレスコ、ブルネイロ・ディ・モンタルチーノとは異なる個性を備えた、イタリアを代表する赤ワインだ。例えばシカやイノシシなどのジビエを頬張りながら楽しむのも、この季節ならでは。濃密で力強さも感じさせてくれる「厚み」と「膨らみ」は、冷え込んだ身体をホッコリさせてくれる。ゆっくりとグラスに注いで、豊かな香りとコクを満喫してみて。
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