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2017/10/28

スクロヴァチェフスキのシューマン 軽やかな重さ(Album Review)

 敬愛をこめて「ミスターS」と呼ばれたスクロヴァチェフスキは、2017年2月にその生涯を閉じた。彼はシューマンの交響曲全集をザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルと刻んでいて、今回リリースされたのは2007年から2010年にかけての読響とのライブ録音である。

 ところでシューマンの交響曲といえば、多くの楽器をユニゾンで重ねたり、全パートに同じ強弱符合を打ったりするために、オーケストレーションが「弱い」だの「鳴りが悪い」といった評価に晒されて来た。いま、独特の響きをもつ管楽器はじめとするピリオド楽器を用いてシューマンの特質を捉え直す演奏も増えている。

 その歯切れよい演奏が文字通り埋もれていたシューマンの新たなる魅力を発見させてくれるのは事実だが、分厚い音響で「鳴りの悪さ」を克服しようとする、ロマンティックな方向性が死んだわけでもない。もちろんマーラー編のような、大編制で極端な編曲を施したものではないにせよ、その際にも、どこをどのように強調するか、リズムの処理はどうするのか、といった課題は、それぞれの指揮者の解釈に委ねられている、つまりシューマンの交響曲は、さまざまなアプローチを受け入れる余白が実に大きい、そう言えるだろう。

 スクロヴァチェフスキのアプローチは、モダン楽器を扱う読響というモダン楽器のオケだ、ということより、本人の傾向としてロマンティックな方向に寄っており、あくまでも流れるような音楽を志向している。それはテヌート重視の姿勢に最もよく出ている。たとえば第2番終楽章の第1主題提示部、第3番のスケルツォと緩徐楽章、そしてなにより全曲を通じてひたすら流麗な第4番が、この特色を雄弁に示している。

 第4交響曲は全曲がアタッカでつながれているものの、各セクションで第1楽章のモチーフ引用が楽章の切れ目を明快に示しているわけだが、ここでスクロヴァチェフスキは、楽章ごとの目覚ましいコントラストと主題の造形に劇的な相違を際立てはせず、むしろ一体感重視している。それがゆえに、この曲がひと続きの曲であることこそを強調する。

 しかし、だからといってのっぺらぼうで平板な演奏になっているわけではない。前述の通り、同じフレーズを幾重にも重ねた箇所で、普通なら耳をそばだてないと聞こえないフレーズを、時に金管、時は木管を強調する、どころか他の声部にかなりの抑制を効かせてでも浮かび上がらせようとしている。その結果として、音の坩堝ではなく、どのパートもないがしろにしないディティールを積み上げた、重層的な響きで濃密さを醸し出そうとしている。

 全体的なテンポ取りは堂に入ったものだし、アッチェレランドで派手に盛り上げる血気盛んな演奏ではないし、それに較べると、第2交響曲終楽章の前後半のつなぎのように、遥かに特徴的なリタルダンドの強調が印象的な箇所もあったりと、実に面白い。

 コクはあれども後味はスッキリした味わい。時にミスターSの興に乗った唸り声も聞こえるこの録音には、そんなコーヒーみたいな陳腐なコピーをつけたくなる。その妙味をゆっくりと味わっていただきたい。Text:川田朔也

◎リリース情報
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ『シューマン:交響曲全集』
COCQ-85381/2 4,536円(tax in.)

 

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