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2017/09/20

【agehasprings】極上ポップス製造マシーンが紡ぎ出す次世代音楽~エド・シーラン「シェイプ・オブ・ユー」~

 agehasprings Open Lab.が音楽のヒットを語る連載シリーズ第5弾。今回は、DAOKO×米津玄師「打上花火」をはじめとする数々のヒット曲に携わった音楽プロデューサー/アレンジャーの横山裕章が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でTOP10ランクイン最長記録を更新、2017年9月18日付の“JAPAN Hot 100”でも5位をマークしているエド・シーラン「シェイプ・オブ・ユー」について語った。


――極上ポップス製造マシーンが紡ぎ出す次世代音楽~エド・シーラン「シェイプ・オブ・ユー」~

by 横山裕章(agehasprings)

 この「シェイプ・オブ・ユー」が収録されている、3月3日に発売されたエド・シーランの3rdアルバム『÷(ディバイド)』を通して聴いてみると分かるのだが、「全曲捨て曲なし!」とはまさにこのことだと思うくらい良い曲が並んでいる。曲調も様々だし、アレンジの技法からコードワークも良い意味で聴きやすいものが使われていて、一切飽きさせない内容になっている。特に「シェイプ・オブ・ユー」はSteve Mac(ワン・ダイレクション、クリーン・バンディット、ピンクなども手掛けている)をプロデューサーに立て、メロディーからアレンジまで共作していて、誰が聴いても文句が言えないくらいポップに仕上がっている。

 「シェイプ・オブ・ユー」をビルボードジャパン・チャート・インサイトで見てみると、動画再生数が7か月以上TOP20以内をキープしている。さらにこの動画再生回数がセールス(ダウンロード、ストリーミング、フィジカルの合算)を牽引しているようにも見える。 ※画像2枚目参照

 そこで、今回は曲調の心地よさを探ってみようと思う。キーはC#mでコード進行もC#m-F#m-A-Bと4つだけでリフレインしている。C#m(Ⅰm)からF#m(Ⅳm)までの関係が、トニックからサブドミナント(安定している響きから少し不安にさせる響き、もしくは次に展開したくなる響き)に、A(♭Ⅵ)からB(♭Ⅶ)までの関係が、サブドミナントからドミナント(次に展開したくなる響きから元に戻りたくなる響き)になっている。 ※画像3枚目参照

 ここでポイントなのが、AからBまでのコード進行のキーを「E」に置き換えて考えると、A(Ⅳ)のサブドミナントからB(Ⅴ)のドミナントへの進行となり、一瞬転調していることになるのだ。C#mとEのキー(お互い親戚みたいな関係からなるキー)を行ったり来たりしながら、「安定させて不安にさせて、もう一回不安にさせてから安心させる」。焦らしコード進行が永遠にリフレインしていて、気付いた時には気持ち良さが残るのだ。

 この気持ち良いコード進行に乗っかって、トロピカルな音色のシンセリフとエドの少しスモーキーな歌声が乗っかる。歌っていることも「バーで出会った、年上のちょいエロな女性に一目惚れしてしまって、退屈だった毎日がいつもとは全然違う景色に変わっていって、恋をしている時の高揚感満載な感覚」を表現している歌になっている。心臓が高鳴っているドキドキ感と、ダンスホール・マナーに則ったジャマイカンで少し前のめりなビートが相まって、この主人公の気持ちを代弁しているような、気持ちの前に身体が先に反応してしまうような、空回りな感覚がたまらない。

 ラジオOA回数で今なおチャート・インし、動画再生もTOP20圏内をキープ。相まってセールスは伸び続け、リリースから8か月以上経っても“JAPAN Hot 100”において5位というこの結果は、こういった楽曲の心地良さがあるからこそだと思う。

 また、全編を通してラップ調な歌い方なのも特徴の一つ。ラップ調の歌い方の場合、スラングや汚い言葉が使われていることが多いのだが、彼の場合はそうではない言葉で韻を作っていて、それもまた好印象である。

 彼の卓越した楽曲のライティング・スキルやセンスが、玉手箱の中身のように凝縮している曲。それがこの「シェイプ・オブ・ユー」なのだ。これからもどんな曲が生まれるのか楽しみでしょうがない。

Text by 横山裕章(agehasprings)

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