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2017/07/18

華やかなポップ・サウンドの裏に確かな自己プロデュース力の感じられる2作目。ハイム『Something to Tell You』(Album Review)

 LA出身の3姉妹バンド=ハイムが、2013年のデビュー・アルバム『Days Are Gone』以来となる新作『Something to Tell You』をリリースした。R&Bやエレクトロポップなど、姉妹が幼少期から触れてきたであろうメインストリーム・ポップの影響をふんだんに盛り込みながら、バンドとしてすべてを血肉化してみせた作品。表面的には極めて華やかで風通しの良い、しかしその実ストイックな自己プロデュースの努力に裏付けられた傑作である。

 アルバムのリード・シングルは「Want You Back」(3姉妹が楽曲のグルーヴを身振りでつぶさに乗りこなすMVも良い)だが、彼女たちはそれ以前に新作の収録曲から「Right Now」のスタジオ・ライヴ映像を公開していた。次女ダニエルが静謐に歌い出し、長女エスティと三女アラナのパーカッション乱舞で締め括られる内容だ。これが、実際にオーディエンスを前にしたライヴではプリミティヴな熱狂必至のパフォーマンスと化してしまう。このあたりも、バンドとしての表現スタイルのこだわりを理解させるものだろう。

 新作『Something to Tell You』はとても瑞々しく弾けるラヴソング集となっているけれども、その歌詞に綴られる情景の中では、どれひとつとして幸福な恋愛の時間を伝えているものはない。恋焦がれるモータウン・ソウル風のキュートなコーラスを、ギターのファズトーンが増幅させる「Little of Your Love」。TLC作品のような小気味よく狂おしいヒップホップ・ソウルを、あくまでもハンドメイドなロック/ポップ・チューンとして料理してみせた「Ready For You」。倦怠感を運ぶベースラインが用いられた「You Never Know」は、さながら往年のマドンナのようだ。

 なお、「Little of Your Love」をはじめとして、今回のアルバムでは数曲を元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリが共同プロデュースしている。日本盤ボーナス・トラックの「Water’s Running Dry」もロスタムが関わったナンバーだ。ロジャー・マニング・ジュニア、ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズ、ファイナル・ファンタジーことオーウェン・パレット、ザ・ヒドゥン・カメラズのマイク・オルセンといったオルタナティヴ・シーンの名プレイヤーたちも参加しているが、ベーシックな作曲やヴィジョンはあくまでもハイムがバンド単位で受け持っている。

 シーンに登場するなり大きな賞賛を浴び、メインストリームへの道が拓けたハイムだったが、彼女たちはインディペンデントな創作姿勢を崩すことがなかった。幼少期から親しんできたメインストリーム・ポップへの真っ直ぐな憧れを表現力の向上へと転化させ、姉妹バンドでもここまでできるぞ、と胸を張って伝えている。流行のスタイルと歩調を合わせるのとはまったく違う、自分たちなりのやり方でポップのど真ん中を狙い撃ちして見せた『Something to Tell You』は、現代ロック・バンドの在り方としても大きなロマンを抱かせる作品だ。(Text:小池宏和)


◎リリース情報
アルバム『Something to Tell You』
2017/07/07 RELEASE
2,700円(tax in.)

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