2017/06/23
ロックンロールの巨星、チャック・ベリー墜つ。そのことが報じられたのは今年3月のことだ。遡ること約5か月前、2016年10月18日つまりチャック・ベリー90歳の誕生日に、彼は実に38年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Chuck』(邦題:チャック~ロックンロールよ、永遠に。)のリリースを発表していた。レコーディングが完了したのち、今年6月9日のリリースを待たずして彼は天寿を全うしたわけだが、本作は息子チャールズ・ベリー・ジュニアや娘イングリッド・ベリー、孫のチャールズ・ベリー三世ら家族の協力も経て自宅スタジオで制作されたアルバムだ。
チャック・ベリーのロックンロールという“芸風”は、1955年のレコード・デビューから2年後の初のアルバム『After School Session』の頃にはすでに確立されていた。リズム・アンド・ブルースを極めてシンプルなコード進行の構成へと削ぎ落とし、アップテンポで楽しい音楽としてショウアップさせる方法。ロックンロールの起源には諸説あるけれども、チャック・ベリーの凄さはそれを“芸風”として受け入れていた点にあるだろう。
ポップな芸人としてのキャラクターを引き受け、ユーモラスなステップを踏みながらパフォーマンスすることで、彼はロックンロールの伝道者となる。ツアーの先々でセッション・マン(カントリー畑の人でもジャズ畑の人でもいい)を雇い、ごく簡単な決め事だけでショウを繰り広げることで、彼のシンプルなロックンロールは逆に際限なく自由なミクスチャー音楽の器としても機能してきた。
新作『Chuck』では、“芸風”としてのロックンロールが彼の長い人生そのものを映し出すサウンドとして鳴り響いている。リード・シングルとなった「Big Boys」は、チャック・ベリーの流儀のど真ん中を行くギター・リフで始まり、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン/オーディオスレイヴのトム・モレロも参加。《おれが今のお前のように小さい子供だったとき 年上の連中がやっていることをやりたかった》と、少年時代のピュアな憧れを回想するナンバーだ。ジョン・レノンもボブ・ディランもキース・リチャーズも憧れた男が、そんなことを歌っているのである。
「Lady B. Goode」は言わずと知れた名曲「Johnny B. Goode」の改作で、ギター弾きのジョニー・B・グッドと恋に落ち、彼の子供を産んだという女性の物語。ストーリーテラーとしてのチャック・ベリーの力量が、軽快な曲調の中で炸裂している。また、《愛しき我が子よ、真実の言葉に耳を傾けてくれ 人生は、あまりにも速く過ぎ去ってしまうものなんだ》と歌われる「Darlin’」は、感涙必至の優しげなバラードである。
また、オーディエンスの歓声から始まるライヴ・テイク「3/4 Time (Enchiladas)」などのカヴァー曲(この最後のアルバムの制作に取り組む直前まで、チャック・ベリーは故郷セントルイスのレストランで月1回のショウを続けていたという)、トロピカル色を帯びた曲調の「She Still Loves You」や「Jamaica Moon」、そしてトーキン・ブルースの「Dutchman」と、オリジナル・アルバムだからこそ味わえる表現レンジの広がりも素晴らしい。天に召されたチャック・ベリーには、ただ嘆き悲しみ、悼む言葉よりも、やはり「Hail!(万歳!)」の言葉がよく似合う。(Text:小池宏和)
◎リリース情報
『チャック~ロックンロールよ、永遠に。』
2017/6/9 RELEASE
UICO-1293 2,600円(tax out.)
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