2017/06/09 20:00
TK from 凛として時雨はこう語る。「syrup16gさんを初めて聴いたとき、こんなに命を削りながら歌う人がいるんだなあと、すごく衝撃的だったのを覚えています。ツーマンで出来るなんて昔の自分に話してあげたいくらいです」。
2017年6月1日、東京・STUDIO COASTにて【TK from 凛として時雨 presents「error for 0 vol.3」】が開催され、対バン相手としてsyrup16gが出演した。彼らが「命を削りながら歌う」のだとすれば、TKは「命を研ぎながら歌う」といったところだろうか。表現方法は違えど自らの命をもって人の胸を打ってきた両者、この共演が実現したとあり、会場には大勢の人が詰め掛けた。
●【syrup16g】“人生のランナーズ・ハイ”的な高揚感
背後からの青い光に浮かび上がる3つの黒いシルエット。先に登場したsyrup16gのライブは、最新アルバム『darc』より、滑らかなメロディが痛みを優しく訴えかける「I'll be there」でスタートした。五十嵐隆(vo,g)なりの挨拶だろうか、<君が側にいないのを/誤魔化して来ただけなんだよ>と歌い上げる間にステージが少しずつ明るくなり、勢いそのまま、2曲目を演奏し終えたところで会場からは「誕生日おめでとう!」の声が。五十嵐はこの日で44歳。直前に「生きているよりマシさ」と歌っていたものの、ファンからの祝福には素直に「ありがとうございます」と答えていた。
一度は「解散」の二文字で多くの人に稲妻のような衝撃を与え、2014年に「再結成」の三文字で黒い虹のような希望を繋いだsyrup16g。その後はアルバムを2枚リリースし、その都度ツアーを敢行するなど、空白の期間を埋めるかのような活発さはむしろ心配になってしまうほど。なお、五十嵐はsyrup16gの解散直後、ものの半年ほどで解散することになるバンド“犬が吠える”を結成したが、この日はその楽曲群より「赤いカラス」を披露した。
不穏な雰囲気漂う「Share the light」では、歪んだギターを歌うように弾く五十嵐、16分音符で音階を上り下りするキタダマキ(b)、スネアやフロアタムが中心の淡々としたリズムを豪快に叩き続ける中畑大樹(dr)の見事な三角構図。サビでは背後、ステージ左右、会場上部などにあるライトが赤と緑に明滅し、その光源によってバンドの陰影がガラリと変わる。スローテンポのアレンジが利いた「回送」の1フレーズ、さらに「coup d'Etat」から「空をなくす」に移行すると、天井から降下した巨大なミラーボールが回転。syrup16gとは不思議な組み合わせにも思えるが、くるくる回る光のパーティ感と“人生のランナーズ・ハイ”的な高揚感のマッチングは見事なものである。
疾走感あふれるナンバーで熱も上がり、「今日は僕の誕生日なんですけど、こんな素敵なライブに誘ってくれたTKとみなさん、どうもありがとうございます」と口を開いた五十嵐、再び叫ばれる「おめでとう!」の数々には照れ笑い。ラストには絶望から芽吹く投げやりな希望を掲げる名曲「リアル」を演奏した。ここでもライティングが効果的に使用され、最後の雄叫びで五十嵐一人に白いスポット・ライトが当たる。正に“圧倒的な存在感”。しかし彼らの受けた歓声もまた、その存在感に負けない圧倒的なものだった。
●【TK from 凛として時雨】神経に直接触れるような緊張感
時を置いて再び会場が暗くなると、ステージを隠す白い幕にオープニング・ムービーが映し出された。やがて幕が左右に開いていき、ステージ背後に「TK from 凛として時雨」の文字がすべり落ちる。まずはサポートメンバーが登場し、向かって左から弧を描くようにTOKIE(b)、須原杏(violin)、鎌野愛(key,cho)、BOBO(dr)が並んでから、遅れて姿を現したTKは中央へ。ペルシャ絨毯のような敷物の上に立ち、ドラムのカウントに続いて勢いよくエレアコをかき鳴らした。
TKとsyrup16gのステージ共演は今回が初。凛として時雨とsyrup16gもほぼ接点を持ってこなかった。意外に思えるが、凛として時雨が1stアルバム『#4』を自主レーベルからリリースしたのは2005年。その3年後にメジャーデビューを果たしたものの、syrup16gは同年3月に解散している。なお、TK from 凛として時雨としての活動は2011年にスタートし、昨年はシングル、ミニアルバム、フルアルバムの3作品をリリース。それぞれに伴う全国ツアーも2度開催するなど、ソロプロジェクトとしては精力的な活動を繰り広げる一年となった。再結成したsyrup16gの調子も好調。この日、共演するには絶妙なタイミングだったと言えるだろう。
TKによる最初の楽曲は、ソロプロジェクト特有の優美な雰囲気に加え、凛として時雨の冷たい衝動も強く感じさせる「Showcase Reflection」。このとき背後にはメロディに合わせて踊り狂うリリックが投影された。ライブでの凝った映像演出と照明にも定評のあるTKだが、今回もスクリーンが世界観を作り上げる重要なファクターとなって、「ear+f」では<血だらけになった僕をそのショーケースに並べて>という部分で赤く染まり、「flower」では大きな黄色の花が咲き誇る。この「flower」の途中でTKはテレキャスターに持ち替え、指が絡まりそうなほど複雑なフレーズを涼しげに演奏してみせた。
「こんにちは、TKです。お久しぶりです」という挨拶からは、最新アルバム『white noise』より「Wonder Palette」を披露。キーボードが放つ一音一音の柔らかな響き、そこへ重なっていくTKのウィスパーヴォイス、風になびくベールのようなヴァイオリン。繊細な音の重なりが靄がかった幻想を生み、TVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』のオープニングテーマとしても知られる「unravel」でも、作品とはまた違う“鮮やかな”イメージを構築。映像との相乗効果でみるみる現実感が失われていく。
そんな中、TKは「今日はお越しいただき……お足下の悪い中、ありがとうございます」と、日中のゲリラ豪雨を踏まえた丁寧な挨拶。金属的なハイトーン・ヴォイス、神秘を孕む鋭いサウンドが大きな特徴の彼だが、地声は柔らかく人柄も穏やかだ。だからこそ本編ラストを飾った「film A moment」の咆哮も、頭蓋骨の隙間から押し入ってくるような切迫感、神経に直接触れるような緊張感をもって響いてくる。故に棒立ちの人も少なくない。ただ呆然と前を見つめるしかないのである。
轟音を引きずるようにして一度は袖にはけたTKだが、オープニングとは逆に今度は一人で再登場。彼がサポートメンバーを呼び込む形でアンコールがスタートした。鎌野愛のコーラスがTKのファルセットに合わさる「white silence」ではタイトルの通り会場が真っ白に。この壮大なナンバーを10分近くに渡って演奏したのち、TKは一言「どうもありがとうございました」とテレキャスターのハウリングを残して去っていった。サポートメンバーも揃ってお辞儀をして退場。入れ替わるようにスタッフが姿を現し、エフェクターのヴォリューム・ノブをゆっくりと回していく。遠くなる残響、落ちていく照明。音と光が同時に消えて、この日のすべてが記憶に変わる。
PHOTO:河本悠貴
TEXT:佐藤悠香
◎セットリスト
【TK from 凛として時雨 presents「error for 0 vol.3」】
2017年6月1日(木)東京・STUDIO COAST
【syrup16g】
01. I'll be there
02. 生きているよりマシさ
03. 赤いカラス
04. 来週のヒーロー
05. Share the light
06. 天才
07. 回送~空をなくす
08. Deathparade
09. リアル
【TK from 凛として時雨】
01. Showcase Reflection
02. ear+f
03. dead end complex
04. flower
05. Wonder Palette
06. Signal
07. unravel
08. Fantastic Magic
09. film A moment
EN1. Fu re te Fu re ru
EN2. white silence
◎ミュージックビデオ
syrup16g「Deathparade」http://youtu.be/hOioCNt01pk
TK from 凛として時雨「Wonder Palette」http://youtu.be/AjK5PJf_SkA
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