2017/06/09
日常において、美しい、と断言できることは意外に少ないのではないだろうか。ときに本心から思えたとしても、陳腐だ、気障だなどと笑われることを恐れ、口にするにも勇気がいる。あるいは言葉の持つ意味を真剣に考えた結果、躊躇してしまうことだってあるかもしれない。
THE NOVEMBERSの結成11周年記念となる映像作品と、その販売に伴う今回のツアーは「美しい日」と名づけられた。ラスト2日間は東京・渋谷 WWW Xで行われ、5月26日のDAY1では、小林祐介(vo,g)含めメンバーが敬愛する田村昭太のプロジェクト、blgtzをゲストとして召還。00年代からカルト的な人気を博してきたblgtzにとっては4年半ぶりの復活ライブとなった。一体、どんな日だったのか――こればかりは多くの人が「本当に“美しい日”でした」と胸を張って答えるだろう。
●【blgtz】衝撃の復活を遂げたバンドの心音
期待と不安が入り乱れる中、エルヴィス・プレスリー「If I Can Dream」のSEで、ギター、ベース、ドラムのサポートメンバーに遅れて登場した田村。相変わらずのきれいなマッシュルーム・カット、シンプルなシャツとズボンというスタイルで、まずは白熱電球のような色合いの光を浴びながら、“静”から“動”への展開が特徴の代表曲「stella」を、KORGのシンセサイザーを用いた“静”を押し出すアレンジで披露した。久しぶりにblgtzを目の当たりにした人の気持ちを昂ぶらせ、初めて彼らを観る人にとっては衝撃を与える幕開けである。
そのヒステリックなまでの緊張感、崖にぶら下がっているようなギリギリの精神性、圧倒的なサウンドスケープが魅力のblgtz。2001年にバンドとして結成され、何度もメンバーチェンジを繰り返すなど、安定しているとは言えないながらも地道な活動を行ってきた。そんな中でTHE NOVEMBERSとも出会うことになるのだが、2012年に3rdアルバム『同時に消える一日』のリリース・ツアーを開催したあと、様々な要因からライブ活動を休止。作品も宅録音源に留まった。当時、田村は自身のブログに「なんとか立ち直って[どんな形でもいい]/また会場でみんなと歌と空間を共有したい。」と書いている。
復活ライブに相応しく、セットリストは名曲揃い。“静”から始まったステージは少しずつ熱を帯び、疾走感あふれる「イデオロギー」辺りから轟音の占める割合が高くなる。決意を持っているかのように鳴るべきところで鳴るドラム、ルート音を追い続けるベース、ひたすらにコードをかき鳴らすギターという、極限まで無駄をそぎ落としたサウンド。体が押し潰されそうになるほどの音圧。田村はときに囁くように、ときに叫びながら、その悲痛な想いをメロディに乗せていく。ただこの日、彼の顔がほころぶ瞬間もあった。楽しそうに笑っていたのである。
「ありがとう。最後まで楽しんでいってください」という無骨な言葉に続き、サポートメンバーは撤退。田村はステージ向かって左側を向き、鍵盤のフレーズと歌声だけで成るスローテンポの新曲「エコー」を演奏し始める。下からの白いスポット・ライトであぶり出されるのは、よろめきつつ、暴力的な足踏みでリズムを取る男の姿。悪魔的なほどの神々しさである。のちに小林は「人がステージに立ってギターを持って歌ってるってことがこんなに美しいなんて、と思ったのは昭太さんが初めてだったんです」とも発言するが、その瞬間がいま現在まで続いていることを証明するかのごとく、田村は自らの胸にマイクを宛がった。ゆっくりと暗闇が還り、心臓の音が鳴る。
●【THE NOVEMBERS】“今”という未来で完成させた「美しい日」
静かに流れる幻想的なSEで登場するや否や、「今日は来てくれて本当にどうもありがとう。blgtzにもう一回、大きな拍手を」と口を開いた小林。今年3月、彼は自身のTwitterにて「僕の人生を変えたblgtzが、帰ってくる」とその興奮を記し、その後も何度かblgtzへの想いを呟いていた。
THE NOVEMBERS結成一年後の2006年には彼らの自主企画【首vol.2】に田村が、翌年にはblgtzの自主企画【THE WORLD WON'T LISTEN vol.2】にTHE NOVEMBERSが出演。その後もお互いのライブに行き来し、作品へのゲスト参加、Ustream配信を共に行うなど、その長く深い付き合いはファンの間にも知れ渡っているが、ここ数年は顔を合わせることがなかったという。ただ、blgtzが長いこと沈黙を貫いていた間もTHE NOVEMBERSはひたすら走り続け、昨年の結成11周年を華々しく迎えたのだった。
この日のライブは映像作品とツアータイトルの基にもなった「美しい火」でスタート。そこからは陽だまりのようなきらめきを放つナンバーが続き、コンクリートさえをも簡単に砕きそうな「1000年」のベース・フレーズが鳴り出すと会場からは大きな歓声が。かくして彼らの攻撃的な部分が打ち出され始めたかと思えば、詩的な嘆きが胸に突き刺さる初期の名曲「アマレット」ですぐに神秘性が回帰する。
その後も水中にいるかのような錯覚を起こすライティング、空間系のエフェクト、柔らかな裏声などによる“静”と、明滅するストロボ・ライト、鼓膜を躍らせる激しいノイズ、猟奇的なシャウトなどによる“動”を駆使。繰り返されるギター・フレーズが印象的な「236745981」のアウトロでは、約1分半に渡ってケンゴマツモト(g)、高松浩史(b)、吉木諒祐(dr)も感情のままにフィードバックを轟かせ、観客を呆然とさせたのち、小林からは正気を取り戻させる「センキュー」の一言。“静”と“動”、“創造”と“破壊”、“幻想”と“悪夢”――こういった両極性はblgtzの影響を強く感じるところである。
最後までほとんど止まることなく、ライブの定番曲も多数披露。ラスト一曲となったところで、小林は「今日は来てくれてありがとうございます」と挨拶し、そこから数分間、慎重に言葉を選びながら訥々と語ってみせた。「blgtzのすごさを目の当たりにしてた僕たちはですね、彼らがそのまま“伝説のバンド”になって語り継がれていくのが本当に納得がいかなかったっていうか……『あのときの俺たちよかったよね』っていう日にならなくてよかったです。とにかく美しいblgtzをステージで観ることができて、僕は本当にもう、幸せでした。blgtzと、僕たちと、あなたの未来に一曲捧げて、おしまいにします。一番きれいな曲をやって今日はおしまいです。本当にありがとうございました。またいい未来で会いましょう」
美しさへの疑念、未来への不安からの解放を暗示する“一番きれいな曲”「Hallelujah」を放ち、THE NOVEMBERSは「次会うときまで元気で」とステージを去っていった。再登場を求める拍手が沸き起こるがアンコールはなし。本編を終えた時点で「美しい日」が完成したからこその潔さである。blgtzと出会ったころのバンドは今よりもずっと内向的で、小林にも強かさよりは繊細さが目立っていた。彼があの頃のままだったとしたら、おそらくこの日が「美しい日」と掲げられることはなかっただろう。今、ここはいい未来になったと思う。
PHOTO:Yusuke Yamatani
TEXT:佐藤悠香
※写真は2017年05月27日に開催されたDAY2で撮影。
なお、8月25日には東京・キリスト品川教会 グローリア・チャペルにてスペシャルライブを開催。その後、9月13日にバンド初のベストアルバム『Before Today』と、ライブ会場で販売されていた映像作品『美しい日』をリリースし、10月から11月にかけてツアーを敢行する。
◎セットリスト
【美しい日】
2017年05月26日(金)東京・渋谷 WWW X
【blgtz】
01. stella
02. パラード
03. イデオロギー
04. 瞬間のドキュメント
05. コントロール
06. New Song
07. エコー
【THE NOVEMBERS】
01. 美しい火
02. 風
03. chil
04. 1000年
05. !!!!!!!!!!!(読み:そしてバカはパンクで茹で死に)
06. アマレット
07. 愛はなけなし
08. 時間さえも年老いて
09. 236745981
10. あなたを愛したい
11. keep me keep me keep me
12. きれいな海へ
13. dogma
14. Blood Music.1985
15. こわれる
16. 黒い虹
17. Hallelujah
◎リリース情報
【THE NOVEMBERS】
ベストアルバム『Before Today』
2017/09/13 RELEASE
映像作品『美しい日』
2017/09/13 RELEASE
◎映像
blgtz「イデオロギー」MV:http://youtu.be/SDvcLk1fFI0
THE NOVEMBERS『美しい日』ティザー映像:http://youtu.be/_KyPh5kDNLQ
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