2017/05/31
2013年に日本で公開され、そのセンセーショナルな内容と怒涛のアクションが大きく話題となった映画『殺人の告白』。同作が、『SR サイタマノラッパー』『ジョーカー・ゲーム』などで知られる気鋭の映画監督、入江悠の手によって生まれ変わった新感覚サスペンスエンターテインメント大作『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』が6月10日(土)に全国ロードショーとなる。
劇中では、藤原竜也が時効によって捕まえることができない殺人犯・曾根崎雅人を演じ、22年前の事件によってすべてを失った刑事・牧村航を伊藤英明が熱演。事件の真相を語る告白本『私が殺人犯です』を出版し、メディアやSNSによって一躍時の人となる曾根崎が、牧村刑事や被害者遺族の感情を逆なでしながら日本中を翻弄する様子が描かれている。
そんな本作で主題歌を担当するのは、ドラマ『ゆとりですがなにか』の主題歌「拝啓、いつかの君へ」で注目を集めた4人組バンド、感覚ピエロ。自主レーベル<JIJI RECORDS>を設立し、作詞作曲はもちろん、レーベル運営やアートワークの作成までを自ら手掛けるなど、独自のスタイルで活動する彼らが、この作品からどのような刺激を受け、それをどう楽曲に昇化させたのか。そして入江監督にはどのような意図があって彼らを主題歌に起用したのか。入江監督と感覚ピエロの横山直弘(Vo/GT)、秋月琢登(Gt)の3名に、対談形式でインタビューを行った。
――まずは今回の主題歌起用までの経緯を教えてください。
入江:主題歌を歌ってくれるアーティストを探している時に、こんなバンドがいるぞって教えてもらって、曲を聴かせてもらったら、「ぜひお願いしたいです」って話になって。映画の編集をしているぐらいの時ですかね。
横山:お話をいただいたのは去年ですね。
入江:秋とかだったと思うんですけど、快諾いただけたので、まずは映画を観てもらいました。
――では作品が出来上がってからオファーしたんですね?
入江:映画が複雑な仕組みになってるし、どんでん返しもあったりして、完成形がなかなか想像できないので。あとは劇伴も試行錯誤しながら作っていたので、それによっても変わるだろうなって。
――劇伴との流れも意識されてた?
入江:劇伴はすごくクールに抑えてもらったので、映画の本編中ではメロディアスな曲が流れないんですよ。なので、「これはエンドロールで爆発させたいな」と思って、感覚ピエロさんにお願いしました。
――オファーが来た時はどう感じました?
横山:嬉しかったです。嬉しかったし、プレッシャーも感じました。映画の主題歌の話が来てるよって聞いた時に、現代人なのでスマホで調べるわけですよ。まだその時は、短めのトレーラーと映画のメイン・ヴィジュアルがバーンって載っているだけのサイトで。それを見て「この映画や!」って思いつつ、「これだけじゃ分かんないな…」って…。
秋月:そりゃせやな(笑)。
横山:で、いただいた脚本を読んで、エンドロールにまだ曲が入ってない映画も観させていただいて、「よっしゃ頑張るぞ」と。
――監督も主題歌について感覚ピエロさんとはよく話し合ったとのことですが、具体的に要望とかされたんですか?
入江:いや、まず最初に映画を観てもらってどう思われるのかなって。それでつまんないって思われたらちょっとショックですけど(笑)。
横山:いやいや(笑)。
入江:音楽って言葉にし難いじゃないですか。観てもらった感触で曲を作って欲しいって気持ちがあったんですよね。
――感覚ピエロのみなさんは映画を観てどう感じました?
横山:すごく気分が重くなりました(笑)。「はぁー」って言いながら映画館から出たんですけど、心に残ってるモヤモヤが色んなことを考えさせられるモヤモヤで。入江さんともその時にお会いしたんですけど、訊きたいことが山ほどあったんですよ。「あそこなんでこうしたんですか?」みたいな。でもそれを訊いて分かってしまったら、もう何も自分の中から生まれなくなってしまうと思って「我慢、我慢」って言い聞かせてましたね。
――自分の中でクエスチョンを残しつつ、楽曲制作に取り掛かったと。秋月さんは作詞するにあたって、特にインスパイアされたシーンなどはありましたか?
秋月:具体的にシーンを思い浮かべることはありませんでした。ただ映画を観て、誰もが何かに葛藤しているというか、それぞれモヤモヤがあって、何かと戦ってるみたいな。映画の中にはもちろん主人公がいるんですけど、実は誰もが主人公みたいなイメージが僕の中にはあって。特定のキャラクターに焦点を当てるんじゃなく、全員に当てはまる問いかけと答えがあるといいなって。で、冒頭のワンワードでクエスチョンマークを投げかけて、映画を観てる人に対しても「あなたはどうですか?」っていう問いかけになったらなと思って作詞しました。
――感覚ピエロさんの曲ってそういった問いかけみたいなものが多い印象です。
秋月:そうですね。わりと多いかもですね。でもその反面、ある意味自問自答みたいなところもあるんですよ。自分も含めて誰もが持ってるクエスチョンマークがあって、それを聴くことによってハッとするようなひとつのきっかけになれたらいいなぁって。
――なるほど。作曲の面ではどうでしたか?
横山:この曲を作るまでは声をコンピューター的というか鍵盤的というか、そういう風に捉えて歌ってたんですけど、今回の「疑問疑答」に関しては、声をいかに楽器として使うかがキーワードだと思ってました。同じメロディをガッって歌いあげるのか、あるいは綺麗に歌いあげるのかで、たぶん映画を観た人の心の残り方にも大きく関係してくる。どう歌えば観客の人に一番歌詞が届くのか、聴いた後に何かを残せるかっていうことを考えながら作りました。
――入江監督は楽曲を聴かれた時にどう感じましたか?
入江:いや、すごいと思いましたね。曲の勢いもそうですし、繊細なところも荒々しいところも両方あって振り幅がすごいですよね。あとは、映画を作ってる側からすると、作品の中で表現したトゲというか、チクチクした感じも音楽に込められていたので、「これはもうバッチリだな」と。お願いして良かったと思いました。
――入江監督は音楽に対するアンテナの感度も高い印象です。
入江:映画って個々のセリフは意外と残らないんですよね。でも全体の印象はすごく残る。映画を観た後にどう気持ちが残るかって、一番大事だったりするんですよ。
――つまり、映画の最後に流れる主題歌が大きな役割を果たしていく?
入江:はい。あと個人的に、映画が終わった瞬間に暗転して、ドンって鳴る音が一番大事だと思ってるんで。そこがヌルってなると2時間やってきたこともヌルっとなってしまうので。
――「疑問疑答」もイントロに入る前の導入部分で一気に引き込まれますよね。
入江:個人的に好きなのはサビ前の「ブブブブブブ」みたいなところ。ああいうのすごく好きなんですよね。
横山:あそこはもう完全に劇伴にインスピレーションを受けたところですね。
入江:ああいうところがすごくセンス良いなと思って。
――作曲する側も劇伴とのマッチングは意識しつつ?
横山:映画を観た時に「やばい。メロディがある劇伴がないぞ」と思って。ということは、エンドロールで初めてメロディのある音楽が流れてくる。そういう意味でもすごくプレッシャーでした。でも逆に言えば、エンドロールにたどり着くまでは劇伴の印象がお客さんにとっては大きいと思うんですよ。それをどう楽曲の中でフィーチャーしていけるかが、たぶん映画と僕たち音楽家をリンクさせるコンテンツになる。そう思って「ブブブブブブ」みたいなエフェクトも入れてみたり。
――「疑問疑答」というタイトルにはどんなメッセージが込められているんですか?
秋月:最初はずっと“自問自答”って言葉が頭の中にあったんですよ。でも、そもそも答えなんて出るもんなんかなぁって思って。疑問に対する答えって簡単には見つからないもので、それを"疑答”っていう言葉で答えの部分をあやふやにしたというか。見つかりそうで見つからない、見つかったとしてもまた新しい疑問が出てきて、みたいな。
――まさにこの作品全体を表しているかのような言葉ですね。書き下ろしの楽曲を作っていくにあたって、普段のオリジナル楽曲と比べて制作過程が異なる点などはありますか?
横山:やっぱりこの映画を観てくれるお客さんのことをまず考えるわけですよ。普段だったら自分たちの音楽を聴いてくれる人たちのことだけ考えればいいけど、今回は音楽ファンだけでなく映画ファンの方も僕らの音楽に触れる。その中で、映画を観た後の印象もとても大事だし、その人たちがどういう風に主題歌というものを捉えて聴いているのかってことも意識しないといけない。そういう意味で普段の制作とは考える範囲が広がっているという感じはありましたね。
――なるほど。入江監督は感覚ピエロのみなさんにどんな印象を持ちましたか?
入江:一緒に作業をする前と後で全然変わりましたね。実際に会うまでは制作者側の姿は見えないじゃないですか。でも、それこそ制作過程の話を聞いたり、最後の音のミックス作業に立ち会ってもらったりしたら、すごく真面目だなって思いましたね。頭も良いし。感覚ピエロさんって音も歌詞も結構ナイーヴなところがあるじゃないですか。なんかこう、生き難そうにしてる人たちなのかなって思ってたんですけど(笑)。
――感覚ピエロさんのDIYなスタンスと、入江監督のチャレンジングな監督としての在り方には、何か通じるものがあるんだろうなと感じました。
入江:感覚ピエロのみなさんもこれからどんどんメジャーになっていく存在だと思うし、これからどんどん昇っていくだろうなって人たちと一緒に何かをやることが好きなんですよ。そんな人たちと一緒に作品を作れたっていうことが10年後とかにすごく大事になるんですよね。お互いにとってそういう作品になっていたらいいなって思います。
――SNSで情報が回っていく描写があったりと、"今”に焦点が当たっているのもこの作品の特徴ですよね。
入江:そういうのも10年後とかには無くなってるかもしれない。この作品はある種のドキュメンタリーだと思うんで、「あの時Instagramあったよね」みたいな、一種の記録の意味も含んでいます。昔のアルバムとかを開いてみると時代を感じたりするじゃないですか。そういう時代性みたいなものを刻みたいなっていうのがあるんですよね。
――すでに次作の制作に着手されてるとのことですが、今後どのような作品に挑戦していきたいですか?
入江:それこそ「疑問疑答」のように、答えが明解にスパッと出るようなものじゃない作品を作りたいと思っていて。あとは『宇宙戦争』みたいなパニック映画が好きなので、ああいうのもやりたいですね。
Interview:Takuto Ueda
Photo:Yuma Totsuka
◎映画情報
『22年目の告白-私が殺人犯です-』
2017年6月10日 全国公開
監督:入江悠
脚本:平田研也、入江悠
出演:藤原竜也、伊藤英明、夏帆、野村周平、石橋杏奈、竜星涼、早乙女太一、平田満、岩松了、岩城滉一、仲村トオル
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2017 映画「22 年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
◎リリース情報
感覚ピエロ『あなたの世界は、何色か?』
2017年5月31日 TSUTAYA・GEO全国各店にてレンタル限定リリース
<トラックリスト>
1. 疑問疑答
2. 暴動
◎感覚ピエロ「疑問疑答」11th MV(映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」主題歌)
https://youtu.be/k_rhyGhRPq8
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