2017/04/28
2月に待望の3rdアルバム『Drunk』をリリースしたサンダー・キャットの単独来日ツアーが、4月27日に東京・恵比寿 LIQUIDROOMよりスタート。そのライブレポートが到着した。
ジャンル横断。
プールの水面から顔を上半分だけ出すという強烈なジャケットでインパクトを与えている最新作『ドランク』が大きな話題となっているLAのベース奏者、サンダーキャット(本名スティーヴン・ブルーナー)の本人名義の初単独来日公演。アルバム自体が実に聴きやすく、ケニー・ロギンス、マイケル・マクドナルドがゲスト参加し、日本でいうAOR的なサウンドとともに大注目される中の公演だけに、ライヴは始まる前から異様な熱気に包まれていた。
いったいあの壮絶ベースはどのようにプレイされるのか、そして一見それに相対するあのソフトなヴォーカルはどう展開されるのか、ジャズ、ポップ、ロック、ファンク、ソウルなどのジャンルを軽く超越している新世代のミュージシャンのジャズ・ライヴ・パフォーマンスだ。
会場は20代から30代中心の若者がほとんど。これまでだとロイ・エアーズやロバート・グラスパーあたりのクラブ公演に集まるような客層の感じがした。立錐の余地まったくない超満員で後半酸欠にさえなった感の会場で、約14分遅れで暗転すると最新作『ドランク』からの冒頭曲「Rabbot Ho」~「Captain Stupido」から始まった。
ステージ右にドラムス(ジャスティン・ブラウン)、左にキーボード3人だけだが、その音量、圧倒感はとても3人のものとは思えない。3人とも超絶技巧派、よくこうした面々が集まるものだと思う。ギターがいないのが寂しいのではないかと、始まる前は思ったが、杞憂だった。サンダーキャットは、ベースをギターのようにも弾くのだ。ドラムスもキーボードも、そしてもちろん、日本文化大好きのサンダーキャットも、これでもかと攻めて攻めてくる。一方、バックが難しいことをやっていても、上にのるサンダーキャットのヴォーカルはそのメロディーの美しさとともに、独特の世界観を生み出す。一瞬ファルセット(裏声)かとも思わせるような美しい声。約2時間のライヴ全体を貫いて支配していたのは、超絶プレイの上に乗るサンダーキャットのヴォーカルだったような気さえしてくる。
これまでに出たCDでは意外とソフトな感じがしていたが、ステージ上でのサンダーキャットは、熱気とエネルギーにあふれるミュージシャンだ。
独特のグルーヴ感はディスコではなく、基本はジャズ、そこにプログレ、ファンク、ロック、ソウル、ブラジル、ラテン的な要素もちりばめられており、非常に気持ちよく体を揺らしてくれる。
自由度。
同じくLA出身のベース奏者、マイルス・モズレーを中心とした緩いミュージシャン・ユニット、ネットワーク「ウェスト・コースト・ゲット・ダウン」の周辺メンバーとして、サンダーキャットは兄のドラマー、ロナルド・ブルーナーJr、あるいはカマシ・ワシントン(sax.)、ドラムスのトニー・オースティン、トロンボーンのライアン・ポーター、ピアノのキャメロン・グレイヴス、キーボードのブランドン・コールマンらと親密にコラボレートしながら、ファンク、パンク、ジャズ、ロック、ゴスペル、R&B、ヒップホップなどを縦横無尽に活動する。彼らにとって音楽ジャンルはあまり意味がない。新しい世代の「ニュー・ジャック・ジャズ」と呼びたいメンバーたちだ。
ラジオなどでへヴィー・エアプレイを得ているマイケル・マクドナルド、ケニー・ロギンスが歌う「Show You The Way」はこの日はアンコールでも歌われなかったが、別の日には歌われるかもしれない。
ライヴ後ちょっとだけ彼と話したが、サンダーキャットのライヴは事前にセットリストは作らず、その場のノリとインスピレーションでインプロヴィゼーションを生み出していくという。ソロ回しの尺もかなり自由だ。彼らのライヴ自体、異様に自由度が高いライヴで、したがって、今日のライヴと明日のライヴでは曲目が違い、たとえ同じ曲でもパフォーマンスは違ってくる。
日本のアニメが好きで、被り物をしながらベースを弾くかと思いきや、この日はそうではなかった。しかし、まるでアニメ・キャラのような彼が超絶プレイを見せる姿は抜群の存在感を見せる。
難しいジャズをやりつつも、ものすごくオタクで、しかも、ちょっぴりポップなセンスも持ち合わせている、そんなサンダーキャット。
ジョージ・クリントンがサンダーキャットをして初めてブーツィー・コリンズに会ったときのようだったと評したそうだが、あのお茶目なキャラクターは、誰にでも愛されるものだ。
彼らのライヴは、名古屋、京都、大阪と続く。再演必至のライヴだ。
メンバー
サンダーキャット(b.vo.)
ジャスティン・ブラウン(ds.)(カリフォルニア州オークランド出身。フライング・ロータスなどの作品に参加)
デニス・ハム(key.)(ロックからポップ、ジャズまで多数のアーティストの作品に参加しているキーボード奏者)
text:音楽ジャーナリスト、DJ 吉岡正晴
photo:古渓一道
◎公演情報
【THUNDERCAT Presents "DRUNK" JAPAN TOUR】
2017年4月27日(木) 恵比寿 LIQUIDROOM ※終了
2017年4月28日(金) 名古屋ブルーノート
2017年4月29日(土) 京都METRO
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像