2017/04/04
ART-SCHOOL初のB SIDES BEST『Cemetery Gates』がリリースされる直前、木下理樹(vo,g)は自身のTwitterにて作品への想いを吐露していた。「決して過去を振り返るってそれだけの意味だけじゃないんだよね。未来に向けての確認ちゅう意味合いのがでかいんだよね。」
――あれから約2か月半、2017年3月30日に今作のリリース・ライブ【ART-SCHOOL LIVE 2017 B SIDES BEST「Cemetery Gates」】東京公演がShibuya WWW Xにて開催された。入手困難だった楽曲も多数収録されている『Cemetery Gates』を網羅したセットリスト。戸高賢史(g)が「特に盛り上がる曲ないんですよ。ずっと暗いんですよ」と言っていたように曲目こそ暗澹たるものだが、どうやらART-SCHOOLの未来は少し違うようだ。
●「I hate myself」――自分を憎みながら、自分の生き抜いた過去には慰めと賞賛を
真っ赤なライティングの元で最初に披露されたのは「I hate myself」。この絶望的なタイトルは今回のリリース・ライブでTシャツ化されており、オーディエンスの中にもこの文字を背負う人が多くいたほか、サポート・メンバーの中尾憲太郎(b)、藤田勇(dr)も揃って着用。悲痛なリリックとポップなメロディが美しい初期の名曲「レモン」など4曲を連投したあと、戸高はこのTシャツについて「なんで作ろうと思ったんですか?」と質問。木下が訥々と「こういう世界ですから、背中で訴えることができる……」と長い説明を始めると、「ちょっとなに言ってるかわかんない」と笑いを誘った。
この日はART-SCHOOLを象徴する初期の楽曲が多く披露されるとあり、様々な想いを抱えるファンが集まっていたに違いない。バンド結成は2000年。オーディエンスの中にはバンドの殺伐とした時期を知る人、久しぶりにライブへ足を運んだ人もいたかもしれないが、そんな人たちにとっては特に驚きだっただろう。昔は「ART-SCHOOLです」の挨拶以外にほとんど口を開かなかったこともある彼ら。この日は仲むつまじくよくしゃべり、そのたびに会場の雰囲気が明るくなる。
エッジの効いたリフからのグランジ展開が印象的な「JUNKY'S LAST KISS」の音源には、規制の“ピー音”で消されている歌詞があるが、こういった部分をそのまま聴くことができるのもライブの醍醐味。そのほか、裏の代表曲「プール」や、2003年に数量限定でリリースされた『SWAN SONG(DISC1)』収録の「LILY」「LOVERS」、『SWAN SONG(DISC2)』収録の伝説的ナンバー「MEMENT MORI」も鮮やかなグリーンの中で歌い上げた。
そして爽やかな哀愁を感じさせる「カノン」のあと、おもむろにフライングVを爪弾いた木下に対し、戸高からは「ちょっと練習しないでよ」との指摘が。さらに戸高は以前のライブで「スカーレット」と「アイリス」のリフを間違えたことを告白した。「ほとんど一緒なんですよ。トップ残しでルートだけ変わってくんで」。しかし木下は「でもね、トディちゃん。「スカーレット」のリフを考えたのはトディちゃんなんですよ」と反論。食い気味で「はい、すみませんでした」と謝る戸高の姿もまた微笑ましい。
そんな戸高が加入した2004年以降の楽曲からは、サウンドの多彩さを示したファンク・ポップ「その指で」、開放的なコード展開とメロディが諦めにも似た爽快感を生む「それは愛じゃない」、春の陽だまりのような暖かみのある抑揚がむしろ切ない「LOVERS LOVER」など。そして木下曰く“ロックン・ロール・タイム”へと入る前、彼が漏らしたのはこんな言葉だった。「ここに辿り着くまでがねえ、「MEMENT MORI」とかもう……つらかった」
●「MEMENT MORI」――死を想う傍ら、射し込む光を疎む理由はなにもない
先ほど演奏されたこの「MEMENT MORI」。疾走感溢れる楽曲の多いART-SCHOOLには珍しいほどスロウで、サビでは<もう遅すぎる/笑われてもいい/味わってみたい/ただ愛される気持ちを>と失意を煮詰めたような短文が並ぶ。演奏後には木下が「こういうバンドいないしねえ、とことん暗くするバンド……やってる本人はね、毎日明るく。いや、これで本当に……」と声を詰まらせ、戸高が「本当に暗かったらヤバいじゃんって言おうと思ったんでしょうけど」と助け舟を出しながら、「そうあってほしいと思う方もいらっしゃると思いますけどね」と呟いた。
あるいは真実かもしれない。時に牧歌的、夢幻的、楽観的なサウンドこそ鳴らしながらも、そこに封じ込められる救い難いほどの暗さで多くの人の心を救ってきたバンドである。若かりしころは木下自身も驚くほど暗く殺気立っていた。冗談であれ「明るい」などと自らを形容することはなかっただろう。しかしこの日、彼は中尾と藤田への想いも込め「このメンバーやスタッフが支えてくれてる」と感謝を口にし、「real love / slow dawn」の前で放った「君たちもポゴダンスとか踊れよ!」という不思議な煽りを突っ込まれるとまさかの大笑いだ。
面と向って対峙しても、人は、人に対してのイメージを作り上げる。ましてや音楽を通し「I hate myself」などと掲げる人間が明るいとは誰も思わない。さらに失礼ながら、木下が根っからの明るい人間になったとも到底思えない。それでも彼はかつての苦悩や懊悩から解放されつつあるのだろう。あのころ、ART-SCHOOLには同じ暗闇の中で痛いほど強く抱きしめてくれるような優しさがあった。それがいま、同じ暗闇から出ようとそっと手を繋いでくれるような優しさに変わってきている。私はこれでよかったと思う。射し込む光を疎む理由はなにもない。眩しくて涙が出るなら拭けばいい。自分の目で捉えようとすること、それ自体にきっと大きな意味がある。
例の“ロックン・ロール・タイム”は異様なほどの盛り上がりを見せ、アンコールでは定番の「ロリータ キルズ ミー」を含め3曲を演奏。そしてフロアが点灯し、ライブ終了の合図となるSEが流れ始めた。こうなると普通は次がないのだが、帰ろうとしない人たちの熱い拍手により再び登場したART-SCHOOL。「まあ……なんもねえ、ですよ。これが最後だから跳べ!」と、真のラストは「あと10秒で」。ライブでは必ず演奏する楽曲だが、このダブル・アンコール、本当に予定のなかったものである。
こうして『Cemetery Gates』のリリース・ライブは正式に幕を閉じた。しかし自身の歴史が詰まったアルバムのタイトルに「墓地の門」とは、なんともART-SCHOOLらしい自虐。ただ忘れてはならないことがひとつ。門は内側に入るためだけのものではない。外へ向けても開くのだ。
TEXT:佐藤悠香
PHOTO:中野敬久
◎セットリスト
【ART-SCHOOL LIVE 2017 B SIDES BEST「Cemetery Gates」】
2017年3月30日(木)東京・Shibuya WWW X
01. I hate myself
02. ステート オブ グレース
03. レモン
04. Ghost of a beautiful view
05. LITTLE HELL IN BOY
06. SKIRT
07. JUNKY'S LAST KISS
08. プール
09. LILY
10. MEMENT MORI
11. LOVERS
12. カノン
13. 1965
14. その指で
15. それは愛じゃない
16. LOVERS LOVER
17. ニーナの為に
18. real love / slow dawn
19. Promised Land
20. スカーレット
21. FADE TO BLACK
EN1. LUCY
EN2. ロリータ キルズ ミー
EN3. BOY MEETS GIRL
WEN1. あと10秒で
◎映像
「B SIDES BEST『Cemetery Gates』Trailer」http://youtu.be/cdvu4UmrUxQ
◎リリース情報
B SIDES BEST『Cemetery Gates』
2017/01/25 RELEASE
<CD>WARS-0003 / 2,500円(tax out.)
01. ニーナの為に
02. ステート オブ グレース
03. 1965
04. プール
05. I hate myself
06. レモン
07. LILY
08. SKIRT
09. LOVERS
10. MEMENT MORI
11. JUNKY'S LAST KISS
12. LUCY
13. カノン
14. LITTLE HELL IN BOY
15. LOVERS LOVER
16. それは愛じゃない
17. その指で
18. Ghost of a beautiful view
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