2017/01/17 11:15
ワクワクするようなシンセの響き。クールなはずのシンセの音に不思議と温もりが宿っていく。インカムを付けたハワード・ジョーンズがノリノリの笑顔でステージに登場する。会場に喝采が沸き起こる。それは最初の1音が奏でられた瞬間に確信できた。ハワード・ジョーンズはフレッシュでモダンなサウンドを、21世紀の今も進化させていた!
デュラン・デュランやカルチャー・クラブ、スパンダー・バレーやポリスらと共に、1980年代、“第2次ブティッシュ・インベンジョン”の中心的アーティストとして一躍メジャーになったハワード・ジョーンズ。打ち込みのリズムを基調としたハイパーでモダンなシンセ・サウンドを駆使しながら、ポップなヒット曲をいくつも放ってきた彼が、新作を携えて『ビルボードライブ東京』のステージに上がった。
「かくれんぼ」を筆頭に、当時のチャートを席巻した人懐こいメロディのナンバーが、装いも新たに“21世紀ヴァージョン”として会場に鳴り響く。そのフレンドリーなムードは、片言の日本語で観客に話しかけてくるハワードの性格を反映したものに違いない。旺盛な実験精神で数々の“時代の音”を創作しながらも、自身の楽曲をポップでキャッチーな耳ざわりに仕立て上げ、多くの人にシンセ・ポップの可能性と楽しさを提供してきた彼。世紀を跨いた今も最新のテクノロジーを駆使しながら、聴き手の心を潤すような、やさしいアコースティク・タッチのサウンド織り交ぜていく。だからだろう。ハワードの親しみやすいメロディ・ラインは以前に増して魅力を増している。
今回は、まさに久しぶりの来日。半ばリタイアしたと考えていたファンも多かったと思うが、ハワードは今もバリバリの“現役”だ。何よりも曲作りのセンスとテクニックが冴えている。決して錆び付いていない。それは昨年の12月にリリースされた『エンゲイジ』を聴けば歴然だ。今宵のステージは、以前のヒット曲はもちろん、新しい作品からのナンバーもふんだんに演奏され、彼が“ポップ・マイスター”として格段に進化/深化していることを肌で感じさせてくれた。
演奏が進むと共に会場に満ちていくワクワク感とピースフルなムード。決して語り過ぎない、まるで“記号”の羅列のような歌詞。しかし、観客はみんな、彼の歌と演奏をリラックスして楽しみ、心地好く身体をスウィングさせ、鼻歌でハワードと“デュエット”している。仕事帰りと思しきネクタイを緩めた“大人”も目立つ客席。それは僕の目には、まるで若かったころの「想い出」を彼らが反芻しているかのように映る。懐かしさ満載のパフォーマンス。そう言う僕も実に久々に体験したハワードのステージだったが、その成熟と音楽作りに対する思慮深さに深く感動した。ライブの余韻は帰宅した今も、良質なワインのアフター・ノートのように続きながら身体にじんわりと染み込み、心からの満足感を堪能している。終盤には大ヒットした「ホワット・イズ・ラヴ?」などをドラマティックに歌い上げ、2人のバック・バンドと共に総立ちの手拍子を全身に浴びている。
まさに貴重な今回のハワードのライブ。東京では今日(17日)、大阪では18日にキャッチ・アップできるチャンスがある。底冷えする寒さが続くこの時期に、かつてのシンセ・ポップのスターが奏でる、ハートウォーミングで親密感に溢れた音楽的“第2章”の幕開け。それを間近で体感する機会を逃すのは、あまりにももったいない。ぜひ、スケジュールを調整して、会場にアクセスして欲しい。内容は保証付きのクオリティなのだから――。
◎公演情報
【ハワード・ジョーンズ ~BACK TO 80s ALL HITS~】
ビルボードライブ東京 2017年1月16日(月)~17日(火)
公演詳細:https://goo.gl/N8CDFI
ビルボードライブ大阪 2017年1月18日(水)
公演詳細:https://goo.gl/m3rrIN
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。身が縮こまるような寒さが続く1月。こんな時季は、身体も心も温かくなれる、ジャミーでまろやかなワインを楽しみたい。人懐こい個性に溢れた南アフリカの固有種「ピノタージュ」で造られた赤ワインは、リーズナブルな値段とコクのあるメロウさが魅力。初の黒人ワイン・オーナーが造った『NEW BEGINNINGS』はフェアトレードの観点からも、まさに21世紀的な1本と言っていい。ぜひ、お試しを!
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