2017/01/01
昨今、その衰退が取り上げられることの多い音楽業界。CD市場は最も大きかった1998年に比べ、現在ではフィジカルとデジタルを合わせてもその半分程度にまで落ち込んでいるという。だがその一方、フェスも含めたライブ市場は右肩上がり。音楽はもはや聴覚だけでなく、視覚、触覚、嗅覚、ときには味覚も駆使し、五感すべてで体感するものに変化しているだけなのかもしれない。
市場のあり方、リスナーの動向だけでなく、特にここ数年は音楽そのものの変化も著しい。進化と断言しよう。これをいま読んでいる人の中に「邦楽はダサい」「最近の音楽はダメ」「若者はよくわからない」と思っている人がいたとしても、申し訳ないが、このまま読み続けてもらいたい。2017年、今までの常識を覆し、音楽シーンを台頭するだろうニューカマーたちがいる。yahyel、Gi Gi Giraffe、PAELLAS、chelmico、Ancient Youth Clubの5組である。
アメリカのニューエイジ思想家であるダリル・アンカは、「2015年以降、人類が初めて接触する異星人」として“yahyel”の存在を提唱した。「ヤイエル」と読む。この名前をそのまま引き継ぎ、正に異星人のごとく唐突に音楽シーンへ姿を現したのが、ボーダーレスな音楽集団のyahyelだ。楽曲を聴いてからメンバーの名前を見れば意外に思うだろう。メンバーは5人。正真正銘の日本人である。
スウェーデンとモンタナに留学経験のある池貝峻(vo)、幼少期にニューヨークに在住していた篠田ミル(sample,cho)、ロサンゼルス生まれワシントンD.C.育ちの杉本亘(synth,cho)で、2015年に結成されたyahyel。2か月後には自主制作EP『Y』をBandcamp上で公開したのち、山田健人(VJ)と大井一彌(dr)が加入して現在の体制となった。2016年には欧州ツアーを敢行、デジタル・シングル『Once』をリリースし、【FUJI ROCK FESTIVAL】における新人アーティストのステージ「ROOKIE A GO-GO」に出演。エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)やアルカ(Arca)などを手がけるマット・コルトンがマスタリングした500枚限定EP『Once / The Flare』と、アルバム『Flesh and Blood』もリリースし、一躍注目されることとなった。
洋楽と邦楽はどちらの方が音楽的に優れているのか――様々なところで繰り広げられてきたこの論争は無意味且つ不毛だとして、邦楽に対する“洋楽っぽい”という評は決して悪い意味では使われてこなかった。ただそれは暗に“邦楽”という枠の中、日本人が抱える多少なりのコンプレックスを示してきたに過ぎないだろう。確かにyahyelのポスト・ダブステップやアンビエント・ミュージック的サウンドに、憂鬱でスモーキーなヴォーカル、広いプラットフォームを持つ英語の歌詞などは日本人離れしているが、日本人離れしている、という点はここではさして重要でない。たまたま日本人であったというだけの話である。
映画『マトリックス』やジョージ・オーウェルなどのSF小説などからも影響を受けたという通り、事前情報なしにはなに一つとしてバックグラウンドを感じさせないディストピア的な世界観は、どこの国から生まれたものだったとしても頭一つ抜きん出たに違いない。山田によるミュージックビデオやライブでの映像演出、池貝が自作したというグループのロゴなど、こだわり抜かれたビジュアル・デザインもこの世界観に深みを与えている。2015年以降、既に人類は異星人に接触しているのではないだろうか。
◎最新リリース情報
アルバム『Flesh and Blood』
2016/11/23 RELEASE
◎「Alone」MV:http://youtu.be/pFQEejH42Oo
◎オフィシャルHP:http://bit.ly/2idGmlk
※【中編】へ続く
テキスト:佐藤悠香
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