2016/12/15 12:00
ア・トライブ・コールド・クエストのファンにとって、2016年は重要な年となった。3月、持病の糖尿病が悪化してファイフ・ドーグがこの世を去った。その8ヶ月後に、18年ぶりに『ウィ・ガット・イット・フロム・ヒア~サンキュー・フォー・ユア・サービス』がドロップ。朗報は続く。この作品のプロダクションを関わったミュージシャンに、気鋭の日本人キーボディスト、BIGYUKIがいたのだ。自身のアルバム『グリーク・ファイアー』を今年リリース、Blue Note Tokyoで初の凱旋公演を終えたばかりの彼に、アメリカでミュージシャンとして生き抜く姿勢と、ラストアルバムの制作風景を聞いた。
--自分で音楽制作をしつつ、セッション・ミュージシャンとして様々なレコーディングにも参加して多忙だと思いますが、優先順位をつけるのが大変そうですね。
BIGYUKI:実は、ついこの間、12月にトライブのバックバンドとして、ジミー・キンメルの番組(人気のトーク・ショウ)に出る話が来たんだけど、ヨーロッパにいるタイミングだったから仕方なく断りました。初めてバンド演奏をする機会だったからすげー出たかったですね。
--YUKIさんは ジャズをベースに、多くのジャンルを横断しています。違う音楽を演奏して切り替えるときに心がけていることがあれば。
BIGYUKI:それぞれのジャンルに特有のボキャブラリーがあると思うんですよ。ドラムが4つ打ちとか、そういう最低限のルール。そのルールを理解した上で、自由な音を乗せていく。僕は、ジャズのルールを完全にはわかっていない落ちこぼれだから、自分をジャズ・ミュージシャンとは呼ばない。
--バークリーでジャズ・ピアノを学びながら、教会で本物のゴスペルの触れたのも大きかったように思います。
BIGYUKI:毎週日曜日に早起きして、礼拝で弾く生活を7年近くやっていました。黒人が多い地区の教会だから、たまにアジア人が来ると親戚か? って言われちゃうような環境でした。
--ステージのセッティングがピアノとキーボード(シンセ・オルガンとシンセ・ベース)と独特ですね。右手でピアノの旋律を弾きながら、左手のシンセ・ベースを弾くのは、とても難しい気がします。
BIGYUKI:簡単ではないですね(笑)。いいところは、左右を意思疎通させる時間差がゼロ。展開を作りたいな、と思って左手でベースラインをバッと変えた時に、右手でピアノの音をぴったり合わせられる。
--そのスタイルに行き着いた経緯を教えてください。
BIGYUKI:シンセ・ベースは最初からあります。BIGYUKIのサウンドでいうと、シンセ・ベースがコア(核)。でも、 一番根っこにあるのはクラシック・ピアノですね 。
--トリオという形態も面白かったですが、全身で演奏する姿が印象的でした。
BIGYUKI:昔からそうだけれど、マティスヤフ(Matisyahu)のバンドとして参加しているうちに、大きくなってきたかも。会場のサイズに合わせて動くことに対して抵抗がなくなってきた、というか。
--今回の作品はほとんどQ-ティップのカラーになっていますね。
BIGYUKI:Q-ティップの頭の中の音をミュージシャンに説明して、それをみんなで演奏していく、という作業なんです。あの人、マジですごいから、すでに全部頭の中で鳴っていて。自分で楽器も弾くし。 9割が彼の頭の中で鳴っている音楽で、1割だけがミュージシャンの領分。エフェクトもどこでかけたいかわかっているし、長年やっている凄腕のエンジニアも(彼が作りたい音を)わかっている。
--曲のコンセプトやアルバムの意義を言葉で伝えることありますか?
BIGYUKI:全くないですね。そういうやり方をする人もいるけれど、僕もそれはやらない。リリックより先に音を作ることの方が多いし。彼の中では同時進行で、アイディアがあったんでしょうけど。
--自分が参加した時と、出来上がった音でだいぶ変わっていた曲と、予想通りだな、と思った曲があれば教えてください。
BIGYUKI:全然違うのはないんです。声が乗る前の状態しか聞いていなかったので、出来上がった音を聞いた時は、単純に嬉しかったですね。最初に聞いたのは、MOMAのPS1で行われたリスニング・パーティー。バスタ・ライムズも来て、Q&Aをやっていました。
--ファイフ以外に、声入れに立ち会った人はいますか?
BIGYUKI:スウィズ・ビーツ。って、彼は入っていないかな? 他のアルバム(に収録される)かもしれない。いろいろ声色を使って、ハイプマン的なことをしていました。あとアンドレ3000。
--ほかにはどんな人に会いました?
BIGYUKI:ジャック・ホワイトや、アルバムに参加したミュージシャンはもちろん会いましたし、あとスウィズ・ビーツと一緒にアリシア・キーズにも会いました。あ。(レオナルド・)ディカプリオも会いました。
--Qティップはレコード・コレクターとしても知られていますが、セッション中に特定のレコードをかけることはありましたか?
BIGYUKI:コレクションは見せてもらいました。ジャズ・ピアニストのアルバムを見せてくれて、この曲好きだから使いたいと言っていたのが、実際に使われました。
--ライターとしてクレジットされている「Melatonin」では、イントロの宇宙を連想させるピアノがYUKIさんっぽいと思ったのですが。
BIGYUKI:あ、俺っすね。メロトロンの電子ヴァージョンがあって、そのピアノ・サンプルを使って弾きました。「Donald」のアウトロも俺です。
--メロトロンってとても高額な楽器ですよね。
BIGYUKI:復刻版でも2000ドルくらいしますね。彼の右腕のエンジニアが機材オタクで、フランク・ザッパが持っていたテープ・マシーンとか、クリームが使ったディレイのペダルとか持ち出してきて使っていました。
--本物ですか? 博物館みたいですね。
BIGYUKI:まさに。ポスト・プロダクションでは相当使っていると思う。
--遊びに来た人全員に紹介してくれるようなフラットな人柄だとか。
BIGYUKI:彼は、フェアーな人。アルバムがリリースされた後で、バンド全員にくれたメッセージもすごくかっこよくて。「君たちの、アルバムが1位になっておめでとう」って。
--その<Your>は大きいですね。みんなの作品だと。
BIGYUKI:それから、ア・トライブ・コールド・クエストという恐竜を復活させる手伝いをしてくれてありがとう--「thank you for helping me resurrect this dinosaur known as A Tribe Called Quest」って。
Qティップ自身がATCQを“恐竜”と呼んだこと。この作品が、完全なる復活であり、終止符であること。それを日本人のBIGYUKIから聞けて、感慨深かった。ファイフがいないのは寂しいけれど、2017年はこのアルバムを引っさげてのツアーも予定されているという。BIGYUKI自身は、12月にヨーロッパでコンサート、1月はニューヨークのウィンター・ジャズ・フェスティバルに出つつ、次の作品のレコーディングに取りかかる。J・コールの新作に参加し、Qティップとは引き続き音楽を作り続けるから、彼の名はこれからも目にするだろう。
取材/文:池城美菜子
◎リリース情報
『ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・・・サンキュー・フォー・ユア・サービス』
2016/12/21 RELEASE(輸入盤、配信は発売中)
iTunes:http://apple.co/2fEq5Vp
<トラックリスト>
01. ザ・スペース・プログラム
02. ウィー・ザ・ピープル....
03. ホワットエヴァー・ウィル・ビー
04. ソリッド・ ウォール・オブ・サウンド
05. ディス・ジェネレーション
06. キッズ...
07. メラトニン
08. イナフ!!
09. メビウス
10. ブラック・スパスモディック
11. ザ・キリング・シーズン
12. ロスト・サムバディ
13. ムーヴィン・バックワーズ
14. コンラッド・トーキョー
15. エゴ
16. ザ・ドナルド
BIGYUKI『グリーク・ファイヤー』
2016/06/01 RELEASE
iTunes:http://apple.co/2hs3ITY
<トラックリスト>
1:レッド・ピル
2:ジョン・コナー feat.ビラル
3:パラダイス・デセンデッド
4:フレッシュリー・スクイーズド
5:ブルー・ピル
6:グリーク・ファイアー
7:レヴォルーション・アス feat. クリス・ターナー&グレゴア・マレ
8:ウェスト・サイド・ガール・リミックス★
★日本盤ボーナス・トラック
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