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2016/11/26

ボン・イヴェール史上もっともエレクトロニック色の強い新作…その真価は?(Album Review)

 2016年2月に来日し、息を飲むほど美しい、荘厳なパフォーマンスを披露したUSインディーの秘境=ボン・イヴェール。前作『Bon Iver, Bon Iver』はグラミー賞で複数の部門にノミネートされる(ベスト・ニュー・アーティスト、及びベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを受賞)など高い評価を得たが、その後の活動休止期間を経ての念願の初来日公演であった。

 そして今秋リリースされた、5年ぶり通算3作目となるフルアルバム『22, A Million』。すべての楽曲タイトルには数字が含まれ、英単語もミステリアスな記号に置き換えられたスペルになっていたりする。さらにその音像はといえば、ブレイクビーツにグリッチ・ノイズ、サンプリング・サウンドに塗り込められた、ボン・イヴェール史上もっともエレクトロニック色の強い驚きの作風だ。

 オープニングを飾るシングル曲“22 (OVER S∞∞N)”は、ひとつの季節の決定的な終焉と、駅に佇む主人公の存在が移動のイメージを浮かび上がらせるナンバーだ。ボン・イヴェールらしい、フォーキーで生々しい息遣いを持ったサウンドにカットアップされたコーラスが加えられ、バンドにとっての新章の到来を伝えている。

 「22(two,two)」は、ボン・イヴェールの主軸であるジャスティン・ヴァーノンが好きな数字であり、「A Million」には彼以外の大多数の人々を指す意味が持たせてあるという。サントラ仕事や、カニエ・ウエスト、ジェイムス・ブレイクらといった他フィールドの才能とのコラボレーションは、ボン・イヴェール=ジャスティンの自我を激しく揺さぶりながら、それこそグラミー賞を獲得するほどに多くの人々と触れる機会をもたらしてきた。

 エレクトロニックな現代型フォーク、あるいは現代型ゴスペルの混沌と化した『22, A Million』は、膨大な情報に曝されながらその情報をデジタルに処理し、辛うじて自我を保とうとする現代人の息の詰まるような生活感を思い出させる。一方で、揺さぶられる自我の向こう側には、新たな自我の発見が一筋の光明のように差し込んでいる。ボン・イヴェールのキャリアを通じた経験が、完璧に肉体的な手応えとして、この新作には込められているのだ。

 ときにジャスティンの美しい歌声やホーンサウンドにエフェクトが噛まされ、重く歪なビートにまみれたとしても、ここにいるのは紛れもなく、新たな環境へと飛び込んでみせたボン・イヴェールである。ライヴ・サポートを行ってきたザ・ステイヴス姉妹も素晴らしいコーラスで参加する、傑作と呼ぶべき一枚だ。(小池宏和)

◎リリース情報
『22、ア・ミリオン』
ボン・イヴェール
2016/9/30 RELEASE
2,200円(plus tax)
※日本盤は歌詞対訳、ライナーノーツ付

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