2016/11/06
デヴィッド・ボウイの『Who Can I Be Now? 1974-1976』日本盤が、この10月19日にリリースされた。これは2015年の『FIVE YEARS 1969-1973』の続編的な位置づけとなるボックス・セットであり、グラム・ロック・スターとなったボウイが軽やかな転身を遂げてゆく、そのダイナミックな推移を追った内容である。
オリジナル・アルバムで言えば、ジョージ・オーウェルの名作小説『1984年』にインスパイアされた『Diamond Dogs』(1974)、フィリー・ソウルに接近した『Young Americans』(1975)、そして「非アメリカ黒人によるソウル・ミュージック」を模索した『Station to Station』(1976)という3作品にあたるこの時期。ボックス内容はさらに、同時期のライヴ・アルバム『David Live』(1974)とそのトニー・ヴィスコンティによる別ミックス、そして2010年のデラックス版『Station to Station』に同梱されていた『Live Nassau Coliseum ‘76』など、計12ディスクが収められている。
興味深い音源のひとつが、当時お蔵入りとなった幻のアルバム『The Gouster』だ。計7トラックの音源の大半は、後に『Young Americans』やそのボーナス・トラックで日の目を見ることになる。今回のボックスのタイトル曲となった「Who Can I Be Now?」も、『The Gouster』の4曲目に収録されている。『Young Americans』ではビートルズのカヴァー「Across the Universe」や、ジョン・レノン、ギタリストのカルロス・アルマーと共作した「Fame」なども収められていたが、ここではソウルに接近し転身を図るボウイの、残酷なまでの自己批評眼が露わになっている。「It’s Gonna Be Me」のストリングス・アレンジを排した厳粛なバラード歌唱からしても、『The Gouster』は余りにピュアな(そして恐らくはピュア過ぎた)ソウル作であることが分かる。
所謂プラスティック・ファンクの『Station to Station』を経由して、ボウイはベルリン時代へと向かうことになるが、無邪気な借り物のスタイルのままでは終われないボウイの特性が、このボックスからは浮かび上がってくる。『Live Nassau Coliseum ‘76』のオープニング・トラック「Station to Station」の豪快でパワフルな響きもまた、変化の過程を伝える大切な1シーンだろう。軽やかな転身こそがロック・スター=ボウイの本質であることに変わりはない。しかし、それはただ天才的な閃きによって成されたものではなく、飽くなき自己批評と実験の繰り返しによって段階的に形を成していったものであるという事実を、このボックスは教えてくれる。(Text:小池宏和)
◎リリース情報
『Who Can I Be Now? 1974-1976』
2016/10/19 RELEASE
WPCR-17491/7502(12DISC) 23,760円(tax in.)
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