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2016/10/01

全米1位を記録したトラヴィス・スコット最新作は、パラノイア寸前の危うい心模様を疑似体験させる重厚な「トラップ・オペラ」(Album Review)

 The Billboard 200で3位を記録したデビュー・アルバム『Rodeo』からちょうど1年。トラヴィス・スコットのニュー・アルバム『Birds In The Trap Sing McKnight』は、この9月24日付の同チャートで初登場1位を記録した。春頃のリリースという当初のアナウンスから、結局は8月いっぱいまで製作作業が行われていたというアルバムだが、待たされた時間にも見合う重厚な「トラップ・オペラ」作品である。

 アンドレ3000の語りで幕を開ける退廃的な「the end」のムード。そして近年、ディープなサイケデリック・ソウルで我が道を歩み続けるキッド・カディと共鳴するかのような「way back」や「through the late night」といったふうに、眠れないまま果てしない夜と昼を潜り抜けてゆく『Birds In The Trap Sing McKnight』。その倦怠感・疲労感はリスナーに纏わりつき、シームレスに連なった美しいトラップ・ソウルの数々が、パラノイア寸前の危うい心模様を疑似体験させる。

 しかし、その若くくぐもった狂熱に身に覚えのある人ならば、本作にはある種のセラピーのような効果を味わうのではないだろうか。エレクトロニック/オーガニックなサウンドが境目なく融合して育む陶酔感「Sweet Sweet」にしても、トラヴィスの歌唱とケンドリック・ラマーのラップが滑らかに連なる「Goosebumps」にしても、冒険的な音楽性の広がりや豪華ゲスト・アーティストの顔ぶれが、作品の一定のムード、一定の目的のために足並みを揃えて進むさまが見えてくる。

 そもそも、『Birds In The Trap Sing McKnight』という意味深なアルバム・タイトルは、ヤング・サグやクエヴォをフィーチャーした先行シングル「pick up the phone」の中の、クエヴォによる《Birds in the trap sing Brian McKnight》という詩的なラインから引用されている。自分自身では制御不能な、逃れがたい衝動や狂熱。それをヴィヴィッドに、どこまでも純粋な形で伝える作品になっているという点で、本作はジャンルの枠組みを越えた普遍的なポップ・ミュージック作と言えるだろう。

 強烈なリスニング体験に我々を巻き込んだまま加速する「guidance」を経て、辿り着くザ・ウィークエンド参加曲にして最終トラック「wonderful」の肯定性は感動的だ。理性を越えた人間らしい感覚を共有させるための、素晴らしい肉体性と説得力を誇る傑作である。〈Text:小池宏和〉

◎リリース情報
『Birds In The Trap Sing McKnight』
iTunes:http://apple.co/2cQt8Y3

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