2016/08/17
2009年にスタートし、ほぼ毎年開催されていたマリーナ・ショウ『Who Is This Bitch, Anyway?』のスペシャル再現ライブ。75年に録音されたこのジャズ・ヴォーカルの名盤を、当時のレコーディング・メンバーでプレイするというステージが、いよいよ今年、フィナーレを迎えた。
メンバーはマリーナが“ドリームチーム”と呼んでいる、デヴィッド・T. ウォーカー(g)、チャック・レイニー(b)、ハーヴィー・メイスン(ds)、ラリー・ナッシュ(key)という面々。実際のアルバムには、ラリー・カールトンを筆頭に他にも著名どころが参加していたが、ライヴにはこれで充分。何よりその名人たちがマリーナの惹き立て役に回り、彼女の歌、一挙一動に呼応して、変幻自在ながらもキッチリまとまった円熟のアンサンブルを披露してきた。長い間ずーっと客足が落ちなかったのも、毎年微妙にアレンジを変えてきたり、その場その場でインプロヴァイズし合う自由があったから。マリーナも演奏陣も一度たりとも同じパフォーマンスは行わず、ショウごとに少しずつ違った表情を垣間見せたのだ。
当然レパートリーも、『Who Is This Bitch, Anyway?』だけには止まらなかったし、8年の間にはマリーナの体調がすぐれず、若干不完全燃焼ぎみで終わった年もあった。それでも近年はかなり元気で、歩く時は杖を頼っても、ステージではとても今年73歳とは思えぬ歌を聴かせた。それが今年、いよいよ最後の時を迎えたのである。
最後のジャパン・ツアーということで、大阪~東京のビルボード・ツアー前に、宮崎でジャズ・フェスティバルに出演したマリーナ一行。ライブはつつがなく終了したものの、猛暑の中での野外ステージで体力を消耗したか、マリーナは数日後の東京初日に声の出が悪くなるアクシデント。キャンセル!?、なんて一幕もあったらしいが、最終日には見事に復調し、ラストの2ndステージはいつも通りの……、イヤいつも以上に魂の籠った、笑顔いっぱいの熱演を観せてくれた。
このショウは、『TAKE A BITE』に入っていたマリーナ作のブルース・チューン「I'll Be Your Friend」でゆる~くスタート。続いてお待ちかね『Who Is This Bitch… 』から「You Taught Me How To Speak In Love」が披露された。前2日の不調を見聞きしていただけに少々不安な気持ちを抱えての滑り出しだったが、この2曲だけで日本ラスト・ステージの成功を確信。そしてこの「「You Taught Me…」に於ける、デヴィッド・T 渾身のギター・ソロの素晴らしさと言ったら!興が乗ってくるとおもむろに立ち上がる彼だが、今回はソロに入るなりステージ中央に進み出て、時に身体をよじるようにして甘くメロウなフレーズを繰り出す。そしてそれをニコヤカに見つめるマリーナ。そこにはいく度もステージを共にしてきた2人の厚い信頼関係が見て取れた。
これがエンディングを迎えると、ハーヴィーが“Hello there”とマリーナに語り始める。すると気の早いオーディエンスかすぐに反応し、ヤンヤの拍手。そう、ダイアローグから始まる『Who Is This Bitch… 』のオープニング・チューン「Street Walkin' Woman」だ。ホントにこの日のファンはアルバムをよく聴いていて、マリーナが発した“Social Service”という言葉ひとつにも苦笑が洩れる。
特徴あるチャック・レイニーのベース・ラインが牽引していく「Feel Like Makin' Love」、マリーナとデヴィッド・Tがユーモアを交えて掛け合う「Rose Marie」など、やはりこのステージのテーマたる『Who Is This Bitch… 』からの楽曲は、ひときわ客席の反応が良い。
それ以外には、「Corner Pocket」に歌詞を載せた「Until I Met You」、ルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」など、耳馴染みのある楽曲がステージに掛けられたが、圧巻だったのは「Everything Must Change」だ。作者であるバーナード・アイグナーが歌ったクインシー・ジョーンズのヴァージョン(74年作『BODY HEAT』所収)のほか、ニーナ・シモンやランディ・クロフォードの名唱でも知られる名曲だが、マリーナもお気に入りらしく、03年作『LOOKIN’ FOR LOVE』で歌っている。が、そもそもアイグナーは『Who Is This Bitch… 』のプロデューサーだから、マリーナとの相性は極めて良いのだ。そして歌詞の深さがそのままマリーナ及びメンバーたちの胸の内を代弁しているかのようで、本当に心の琴線を掻き鳴らすほどの素晴らしいパフォーマンスが堪能できた。
アンコールでは大きな花束を受け取り、笑顔で日本でのステージを終えたマリーナ。バンドのみんなが望んでいたというスタジオ録音の新作は終ぞ実現しなかったが、のべ70~80回のショウを通じ、彼らは“バック・バンド”から真に一体化したチームになった。
その歩みに寄り添い、応援の拍手を贈れたのは、我々日本の音楽ファンだけである。それを誇りに、マリーナとメンバ−たちの今後をあたたかく見守っていきたい。
Photo: Masanori Naruse
Text: 金澤寿和
◎公演情報
【マリーナ・ショウ LAST TOUR IN JAPAN】
ビルボードライブ大阪
2016年7月25日(月)~26日(火)<終了>
ビルボードライブ東京
2016年7月28日(木)~30日(土)<終了>
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