2015/08/17 12:27
サントリー芸術財団が主催する20世紀の音楽や最新の作品を紹介するシリーズ・コンサート【サマーフェスティバル2015】が、8月22日から東京・サントリーホールにて開催される。
今回ひとつの見所となっているのは、戦後ドイツ前衛音楽の旗手ともいえる2人の作曲家がほぼ同時期に書いた、「声」をテーマにした2つの作品だろう。総勢200名という巨大な編成で演奏されるツィンマーマンの「ある若き詩人のためのレクイエム」は、大野和士の指揮による日本初演。シュトックハウゼンの「シュティムング」は1970年大阪万博以来の再演となっており、どちらも聴き逃せない公演だ。
プロデューサーである音楽学者・長木誠司がつけた2つの公演を結ぶタイトルは【拓かれた声/封じられた声――ケルン1968/69】。「20世紀において「声」が、音楽の中で、あるいは音楽の外でどのような役割を担ったのか、また「戦後70年」の機会に、戦争のなかで「声」がどのような位置を占めていたのか、がテーマ」だと言う(公式ページ長木誠司インタビューより)。
8月4日にはツィンマーマン「レクイエム」を堪能する為のトークイベントが東京大学駒場キャンパスで開催され、プロデューサーの長木誠司、本公演指揮者の大野和士、エレクトロニクスを担当する有馬純寿、字幕映像の原島大輔が登場した。
この「レクイエム」は、ヴァイオリンとヴィオラの伴わないオーケストラ、会場周囲に配される複数の合唱、ジャズ・コンボ、ナレーター2人など総勢約200人の巨大編成にも関わらず、65分ほどの演奏時間のなかでこれらが鳴るのはたった数分で、テープ音源が時間の大半を占めているという構成だ。ドイツ語はもちろんハンガリー語、チェコ語、古典ギリシャ語、ロシア語などの詩や報道、著作などのテキスト、そしてヴィトゲンシュタイン、毛沢東、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ジョイスなどの肉声が代わる代わる、または重なり合って登場し、「第九」「ヘイ・ジュード」が突如現れるという、精緻に構成されたカオス的なコラージュ作品でもある。
楽曲冒頭は会場左手奥から聞こえてくる重低音の細かい音によるドローンで、徐々に他のスピーカーや管弦楽が入り、音は会場全体に広がっていく。楽音、電子音、声や言葉など膨大な音情報の洪水が次々と降りかかってくる様子を、公演当日と同じようにしつらえられた8チャンネルのスピーカーを通して、デモンストレーションを交えながら実際的な解説が行われた。また日本語字幕についても普段のコンサートと全く違い、多言語でかつ重層的に聞こえてくる「聞こえづらい」言葉の表現を、文字映像としてどのように視覚的な演出をしているかがスクリーンに映された。
指揮者の大野和士からは実際に使用しているスコアが示され、その特異な譜面を見た参加者の驚きに、大野自身も同様に初見時は解することが出来なかったと打ち明ける場面も。ツィンマーマンが語ったという「私の作曲の手法というのは、全ての相矛盾することを1つの作品の中に集めることだ」という言葉が紹介され、作曲者自身のバックグラウンド、そして言語、言葉の意味性への眼差しについて楽曲の事例を交えて紹介された。
公式ページには、楽曲の内容や構成についての詳細な解説や演奏者インタビューなど豊富なコンテンツが掲載されている。じっくり予習をしつつ、実際に体験として聴いて初めて分かる作品の重層的な世界観を楽しみに、公演日を待ちたい。text:yokano
◎公演情報
【レクイエム~詩と声と命の果つるところ】
日時:8月23日(日) 17:30開場 18:00開演
会場:サントリーホール 大ホール
曲目:B.A.ツィンマーマン「ある若き詩人のためのレクイエム」(日本初演)
※大野和士と長木誠司によるトークあり
指揮:大野和士
ナレーター:長谷川初範、塩田泰久
ソプラノ:森川栄子
バリトン:大沼 徹
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京都交響楽団
大石将紀、西本 淳(サクソフォン)、堀 雅貴(マンドリン)、大田智美(アコーディオン)、長尾洋史、秋山友貴(ピアノ)、大木麻理(オルガン)
ジャズ・コンボ:スガダイロー・クインテット
スガダイロー(ピアノ)、吉田隆一(サクソフォン)、類家心平(トランペット)、東保 光(ベース)、服部マサツグ(ドラム)
エレクトロニクス:有馬純寿
【シュティムング~内観する声ひとつ】※予定枚数終了、当日券は当日発表
日時:8月29日(土)18:30開場 19:00開演
会場:サントリーホール ブルーローズ
曲目:シュトックハウゼン「シュティムング パリ版」
音楽監督:ユーリア・ミハーイ
ソプラノ:工藤あかね、ユーリア・ミハーイ
アルト:太田真紀
テノール:金沢青児、山枡信明
バス:松平 敬
サントリー芸術財団 サマーフェスティバル2015
http://suntory.jp/summer/
写真:大野和士(C)Haruki、B.A.ツィンマーマン(C)Schott Promotion
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