2015/07/31
UKソウルの第一人者、シンプリー・レッドの約8年振りとなる新作『ビッグ・ラヴ』を聴いてみて、率直に感じたのは本当に優れたグルーウを生み出すグループだ、と再認識させられたこと。
先行シングルでリリース&お披露目された「シャイン・オン」は、ミック“レッド”のグルーヴ感覚と、古きソウルから受け継いだメロウネスが融合した傑作。ひたすら耳障りが良いまま、続く「デイドリーミング」へ、そして緩やかなタイトル曲でリラックスモードに切り替えると、再び「ザ・ゴースト・オブ・ラヴ」で、グル―ヴィーなナンバーへと、静から動へ移行する…。
その「ザ・ゴースト・オブ・ラヴ」あたりで特に彷彿させるものがある、名曲「スターズ」に通ずるバンドの安定感、そして親しみやすい曲調が、本作の特徴ともいっていい。西海岸サウンド漂わす、流麗なストリングスが印象的な「ダッド」や、「ラヴ・ゲイヴ・ミー・モア」あたりも、まさにそう。25年前の作品と重ねるのもどうだか、しかしながら、スタイルはかわってないのに、まったく古臭く感じさせないのが、シンプリー・レッド特有のこのグルーヴだ。
本作は、ツアー中のアドレナリンが放出している最中、突如インスピレーションで制作され、じっくりゆっくり、年月を掛けて…というレコーディング形態ではなく、アルバム・トータルでミックが一気に書きあげた渾身の力作。5thアルバム『ライフ』で務めたプロデューサーのアンディ・ライトと再タッグを組み、デイブ・クレイトン(キーボード)やイアン・カークハム(サックス)といった、前作からのバンドメンバーも参加している。日本が誇るギタリスト、鈴木賢司氏のクレジットも見逃せない。
その前作『ステイ』では、“非シンプリー・レッド・サウンド”を試みる、ミックのミュージシャンとしてのスランプ的要素が伺えたが、本作は、一点集中で全曲完成させたことや、「スターズ」のような、かつてのシンプリー・レッドらしいサウンドが戻ってきたことで、その迷走期は完全に抜け出したのではないかと思わせる、安定感ある作品に仕上がっている。
彼らの音楽には、モータウンのような60~70年代を意識したポップ・ソウルから、ダブやレゲエ、R&Bにブルースなどが根底にある。黒人音楽への憧れがあるUKソウルシーンにおいては、シンプリー・レッドをはじめ、どのアーティストもそういった要素は感じられるけれど、彼らの音楽には、特にブラック・ミュージックの影響の色濃い楽曲群が数あり、本作『ビッグ・ラヴ』にも、そのテイストはふんだんに取り込まれている。その中では、ジャズを再現した「老人とビール」が、特に黒人音楽へのリスペクト、影響の強さを感じさせられた。
日本盤はボーナス・トラックにニール・ヤングの「孤独の旅路」も収録される。
Text: 本家 一成
◎リリース情報
『ビッグ・ラヴ』
シンプリー・レッド
2015/08/05 RELEASE
2,592円(tax incl.)
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