2015/07/29
ラスベガス出身、現在20歳のシンガー・ソングライターであるシャミール。彼がXLレコーディングスからリリースしたアルバム『Ratchet』が、この7月に日本盤化された。フューチャリスティックなソウル/ファンク・ミュージックと、それを乗りこなす美声が印象的なアーティストだ。
アルバム冒頭で《この街はいい所だよ、少なくとも夜の間はね》と彼の故郷を歌う、ミドル・テンポのエレクトロニック・ソウル「Vegas」に触れれば、その斬新な可能性を響かせるトラックと、何よりもミステリアスな魅力に満ちた歌声に驚かされるだろう。シャミールは素晴らしいカウンターテナーを誇るヴォーカリストであり、また彼自身“女性として成長した”と公言する両性具有的な人物なのだ。
そして2曲目以降は、キャッチーでありながらも先鋭的であることをまったく恐れない、伝統的なスタイルとは一線を画したシャミールのディスコ・タイムが華やかに幕を開ける。《素敵な人を見つけるのは難しいよね/でもそれがどうしたって言うの。さあ、外へ出掛けて大騒ぎしよう》と景気良く煽り立てる「Make A Scene」があれば、思いのすれ違いに苛立ちを隠そうともしない「Call It Off」もある。清々しいくらいにキレの良いポップ・ソングが並ぶからこそ、恋の逃避行をひたすらロマンチックに描き出す「Demons」や、重厚なオルガン風サウンドとホワイト・ノイズの中で失意に震える「Darker」といったナンバーの美しさも映えるというものだ。
それにしても、なぜシャミールは若くして、こんなにもオリジナリティ溢れる音楽性としなやかなアティテュードを持ち得ているのだろうか。幼少時の彼は、音楽業界に携わりながら同居していた伯母や両親の薦めでロックやジャズ、ヒップホップなど多彩な音楽に触れ、十代中盤にはパンク・バンドのメンバーとして活動していたそうだ。多様な個性の在り方を教えてくれるアートの存在が、彼の自由で自信に満ちた成長を支えていたのかも知れない。古くからディスコ・ミュージックはセクシャル・マイノリティに支持され共に成長してきた文化でもあったが、シャミールのまったく新しいディスコ・ミュージックが、どれだけ多様な人々を支え、また支えられるかは、ワクワクさせられるほどに未知数である。
なお、『Ratchet』の収録曲をシャミールと共作しているニック・シルヴェスターは、シャミールのインディーズEP『Northtown』(2014)をリリースしたレーベル=GODMODEの設立者であり、以前にはピッチフォークのライターとしても活躍していたという人物だ。ユニークな協力者を得て活躍する姿も、実に現代的である。
[text:小池宏和]
◎リリース情報
『ラチェット』
2015/07/01 RELEASE
BGJ-10241 2,263円(tax in.)
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