2015/07/16 10:30
今、思い返しても、7月6日はとにかく素晴らしいステージだった。
『世界を売った男』――この挑発的なタイトルだけで、1970年にリリースされたデヴィッド・ボウイのロック・アイコンとしての存在感と、当時としての革新性が読み取れるだろう。背徳的な言葉を多用し、当時のタブーに挑んだボウイ初期のキャリアで最も重要と思われるこの作品をプロデュースしたのが、トニー・ヴィスコンティ。彼は2013年にリリースされた、目下のところデヴィッドの最新作である『ザ・ネクスト・デイ』もプロデュースしている。言わば、デヴィッドの音楽にとってなくてはならない最も重要なブレインなのだ。
そのトニーが盟友ウッディー・ウッドマンジーと共に『世界を売った男』の再現ライヴをヨーロッパでやっているという情報を耳にしたのは、今年の初め。そして、いよいよ日本でもそのライブを観ることができる日が来たのだ。
メンバーにも注目して欲しい。ヘヴン17のグレン・グレゴリー、ジェネレーションXのジェイムズ・スティーヴンソン、そしてオリジナル・アルバムのレコーディングに参加していたギタリスト、故ミック・ロンソンの娘、リサ・ロンソンといったブリティッシュ・ロックを革新してきた人たちが集合してデヴィッドとトニーが作り上げたインモラルでシュールなロックの世界観をリアレンジし、再現してくれた。
最初は「イロモノなのでは?」と斜に構えていた僕だが、演奏が始まった瞬間から、これはまさにスペシャルな、21世紀の『世界を売った男』の表現なのだと確信した。
幅広い世代が集まった9人のバンドのアンサンブルは非常に素晴らしく、単なる「ロック」とは確実に一線を画している。そして何よりも特筆すべきことは、強力なツイン・リード・ギターとドラムスを筆頭に、現役感覚がまったくズレておらず、生々しい音を弾き出していたことだ。
トニーやウッディーはどちらかと言えば、音楽業界では裏方の人。オーディエンスの前で演奏を披露する人たちではないと、今まで僕は認識していた。しかし、実際にはプロデューサーやエンジニアとして優れていただけでなく、ミュージシャンとしても一流の腕前を備えていたわけだ。
アルバムに収められている印象的な楽曲が、ボウイのアンドロジナス的な雰囲気とは異なり、パワフルながらもトニーらしい独特の陰影がある表情を垣間見せながらステージは進行していく。20世紀には、よもやこんなライヴを体験できるとは思ってもいなかっただけに、生で聴ける“今”の『世界を売った男』が目の前で展開されているという、一種不思議な感覚が身体に染み込んで行く。これは、果たして現実なのか――。
しかし、これは紛れもない現実だったのだ。ロックはもはや、それだけの“歴史”を抱え込んでしまった。現代のミュージック・シーンでは、決して最前線の音とは言えない「ロック」。しかし、未だに大半のミュージシャンの発想の源になり、さまざまなアティテュードがなぞられている――そこに「ロック」の音楽としての永遠の輝きがある。
今回のライブは、それをまさに見事に証明してみせたのではないか。
ハイライトはやるせないほど儚い「ファイブ・イヤーズ」に始まり、切々と歌われる「ジギー・スターダスト」、躍動的な「チェンジズ」、まったく色褪せていない「ロックンロールの自殺者」や「タイム」「サファジェット・シティ」といったナンバーを繰り出してくる後半。聴いている間中、僕はまるで10代のころに聴いていたロックに再会したかのようにワクワクし、何度も鳥肌が立つくらいドキドキした瞬間を体感した。
ロックは永遠なり――そんな当たり前のことを、全身で感じさせてくれたライブだった。
Photo: 鋤田正義
Text: 安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。梅雨明けまで秒読みのこの時期、来るべき真夏に飲みたいワインを1本。イタリアのアンティノリ社が夏季限定でリリースする、冷やして美味しい赤ワイン「フィキモリ」。イタリア土着のネグロ・アマーロを使った渋みが少なく果実味が爽やかなライト・ボディのカジュアルな味は、夏バテから我々を救ってくれる。ぜひともお試しを!
◎公演情報
トニー・ヴィスコンティ and ウッディー・ウッドマンジー
play デヴィッド・ボウイ "世界を売った男"
ビルボードライブ東京
2015/7/6(月)-7(火)
◎イベント情報
鋤田正義写真展・フラッシュバック
会期: 2015年7月18日(土)~11月8日(日)
時間: 9:00~17:00 年中無休
*入館は閉館の30分前まで
会場: 彫刻の森美術館
http://www.hakone-oam.or.jp/about/?id=9
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