2015/04/10
これまで森高千里や藤井隆といった華やかなゲストを招いてきたtofubeatsが、メジャー移籍後、初めてゲストを迎えずに発表した3rd EP『STAKEHOLDER』。(正確には、一曲にokadadaがフィーチャーされているが、tofubeatsとの関わりも深い彼の場合、ゲストというよりホストに近い印象。)
優秀なポップ・マーケッター(念のため書くと、揶揄ではない)としての、あるいは、“インターネット世代のビートメイカー”という良くも悪くも視野の狭いレッテルから離れつつある、1人の音楽家としてのtofubeatsの通史から見れば、本作は次作以降への布石の1枚と位置づけられるかも知れない。ゲスト無し。しかも、音楽的にも、王道テクノ色や、オーセンティックなファンク色を持った作品を、このタイミングでリリースしたことには、やはり、ある種のテストとしての意味があるのだと思う。いま改めて世に問うてみる、みたいな。しかし、本作はそれだけに語るを終えるにはとても惜しい作品だ。
先日、MVの公開された表題曲「STAKEHOLDER」。トラップ以降の、クリックは32ビートで刻みながら、ベースやキックは緩やかな4ビート感覚で動くというリズム構造と言い、歌メロが事実上存在しない全体の構成と言い、J-POPのシングルとしてはかなり挑戦的で、それだけでも十分に推したくなる。でも、それが素晴らしいのも、いわゆるAメロにあたるパートの洗練されたビート・メイクや、最終コーラスで登場するシンセがベース・ラインと呼応するように旋律するこなれたアレンジがあるからこそ。それらは明確に、この曲が、単にトリッキーだから、という理由でシングルに選ばれたのではないことを物語っている。
6曲目の「She Talks At Night」のマッシブなマシン・ビートの反復には、これまでの彼の作品にはなかった陶酔的な美しさが潜む。あるいは、8曲目「(I WANNA)HOLD」は、途中から入るメロウなピアノリフにこそtofubeatsらしさを見いだせるものの、ミニマルなビートに昇降するブリープ・ノイズが絡むテクノ・サウンドは、2000年代のMr.Oizoあたりの作風とも繋がりを感じる。あるいは更に遡って、2014年に亡くなったマーク・ベル=LFOへのオマージュなのでは? という疑問も頭をよぎる。いずれにせよ、どちらの曲もテクノ・プロデューサーとしての自身を明確に意識した楽曲になっている。
オマージュと言えば、こちらは明確にオマージュなのが1曲目の「SITCOM」と本作のアートワークで、『フルハウス』に代表されるような所謂アメリカのホーム・コメディに捧げられている。その表面的で脱臭感のあるイメージを大胆に借用するセンスは、ヴェイパーウェイブ時代のインターネット・カルチャーのイメージ転用のセンスを受け継いでいると言えるが、それらを文字通り、お茶の間レベルのアイデアまで落とし込む度量がtofubeatsの強みでもある。
tofubeats自身のヴォーカルをフィーチャーした最終曲「衛星都市」は、本作の中でも最もヒップホップ寄りのアナログ感を強調したビートと、淡々と揺れずに進む歌がリズムの体幹となり、そこにベースとシンセが絡むというユニークな構造の曲。後半、4分過ぎからは合唱めいた厚いコーラスが大サビを繰り返し情感を高めるが、しかし、どこか寂寥感を残したまま曲は終わる。
タイトルの『STAKEHOLDER』は「利害関係者」を指す経済学の用語。門外漢の深入りは禁物だが、表題曲の<キミと利害関係したい>という歌詞の指す<キミ>が恋愛相手ではなく、もっと広義のJ-POPリスナーを指すとのだと見立てれば(その中にはもちろん、tofubeatsをまだ知らない/好まない層も含まれる)意味深なようで、いかにも“らしい”野心を示したタイトルだと言える。そして、本作に鳴らされているのは、その野心に見合うだけの音楽だ。
Text:佐藤優太
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像