2015/02/26
そもそも僕がでんぱ組inc.を知ったのは…と、つい昔話から初めてしまいそうになる作品だ。耳目を引くコンセプトとハイパーなテンションで“仕掛ける”アイドルだったでんぱ組も今は昔、本当の意味で“みんな”のアイドルとして現在の彼女たちがいることを実感する。でんぱ組の約1年半ぶりのアルバム『WWDD』は、ジェットコースターに乗ったあと、カフェでゆっくりお茶をしながら、次はどこに行こうかを相談している時にも感じるような充足感に溢れている。
前作『WORLD WIDE DEMPA』と比べて最も大きな変化は楽曲全体のテンポが落ち着いたことだろう。グループのイメージの形成に最も貢献した作曲家の一人である、Wiennersの玉屋2060%の手がけた曲を例に比較すれば、前作では「でんぱれーどJAPAN」、「でんでんぱっしょん」の2曲ともBPMが190近くあったのに対し、本作の「でんぱーりーナイト」はBPM160強、「サクラあっぱれーしょん」に至ってはBPM140前後とかなりテンポダウンしている。もちろん曲の親しみ易さは様々なパラメーターの組み合わせによって決まるが、結果から言っても、『WWDD』の収録曲のほうがより多くの人に受け入れられ易いものになっていると言える。
また、前作に収録されていた「W.W.D」や「W.W.D II」のようにメンバー自身の物語性を過剰に押し出すような曲も今回はほぼ皆無で、むしろ、清竜人の手がけた「Dear☆Stageへようこそ(ハート)」が中盤に置かれ、“リスナー側から見たでんぱ組inc.”という客観的な視線を意識させるような構造にさえなっている。agehasprings直系と言えそうな「ダンス ダンス ダンス」をはじめ洒脱な曲が並んでいることも、本アルバムから感じる余裕のようなものを強調している(実際、アルバムにはagehaspringsのクリエイターも複数人参加しているけど)。
これら全てが、彼女たちが長年努力を重ねた結果として身を置いている現在の立場や態度の表明として機能している、と言い切ってしまうのは、やはりちょっと甘いだろうか。欲を言えば、本作に参加したほぼ全てのクリエイターが、彼らに期待されているだろう職務を100%やり切るに留まっていて、それ以上の何かにはなっていないのではないかという疑念もあるが、責められるべきことでも無いだろう。
唯一の例外は先ほども触れた清竜人の2曲。異色のアイドル・ユニット、清竜人25の活動が本格化しつつある現時点から見れば、逆に清竜人自身の文脈に引き寄せ過ぎている感もあるが、3連のリズムを巧みに盛り込んだリズム構成や、押韻を多用したリリックはやっぱり超ファンキーで最高だ。
冒頭のくだりに話を戻せば、実際のところ筆者が彼女たちを知ったのは2011年頃。特に古い話じゃない。それも「変わった子たちがいるんだな」と横目に眺めた程度で、本格的に視野の中心に入ってきたのはそれからしばらく経ってからのことだった。「そんな程度で彼女たちを分かったようなことを言うな」といつだって古参は言う。そして、彼らの言うことは正しい。グループにとって最も大切な時期に支えて来た古参のファンには一定のリスペクトが払われてしかるべきだ。
だけど同時に、本当は知りもしないことを想像させる力が作品やアーティストに宿っているということ自体、ポップスの醍醐味であり素晴らしさだとも思う。それも『WWDD』のように、充足した感覚に溢れた作品ならなおさら、その魅力をともに称え祝福したい、という気持ちになるのではないだろうか。
Text:佐藤優太
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