2015/02/11
ブライアン・フェリーの最新アルバム『Avonmore』が、この1月に日本盤化された。オリジナル盤の10曲に加え、オープニング・チューン“Loop De Li”のリミックスが2曲、追加収録されている。まるで彼の長く奥深いキャリアが、肩肘張らずナチュラルに集大成を形作っているような作品だ。知的であると同時に官能的、またヴァイタリティに満ちていながら同時に老成の味わい深さも滲み出るという、これぞブライアン・フェリーの現在地、というロック・アルバムなのである。
ブライアン・フェリーのソロ・ディスコグラフィーは、彼が所属していたロキシー・ミュージックと同じく、1970年代前半まで遡ることが出来る。その美しいテナー・ヴォーカルの可能性を探るように、カヴァー集として制作されたデビュー・アルバム『These Foolish Things』がリリースされたのは1973年のことだ。1983年のバンド解散後にはソロ作品でのオリジナル曲披露も増えてくるが、ロキシー・ミュージックの意匠を引き継ぐ路線のソロ作品(近年は再結成ロキシーのツアーも行われていた)と、カヴァーを中心に自由なスタンスでヴォーカリストとして活躍するソロ作品が共存している。新作『Avonmore』は前者だが、かといって後者タイプの作品を軽視するわけにはいかないのが、ブライアン・フェリーの凄さであり、ややこしさなのである。ブライアン・フェリー・オーケストラ名義の前作『The Jazz Age』(2012)はオリジナル曲で構成されているけれども、どちらかと言えば後者のタイプと言えるのではないか。
長きに渡ってキャリアを見守って来たファンの期待に応えるような『Avonmore』の魅力は、彼の歌声とよく似合うリッチなアレンジの楽曲が並べられているにも関わらず、過剰な気負いがなく、整ったプロダクションで纏め上げられている点にある。ギタリストだけでも、多くの楽曲でジョニー・マーとナイル・ロジャースという酸いも甘いも噛み分けた2人が共演し、盟友と言えるニール・ハバードやマーク・ノップラーも登場するという余りに濃い顔ぶれなのだが、すべての演奏がブライアン・フェリーの歌へと集約されてゆくような、そういう手応えがある。力強い推進力と引き摺られる哀愁が手を取り合い、滋味深い歌声を後押ししている。トッド・テリエのアルバム『It’s Album Time』(2014)で共演したカヴァー曲「Johnny and Mary」も収められているが、敢えてこの名カヴァーにアルバムのフィナーレを委ねた点は英断と言えるだろう。
本作のタイトルは、ロンドン・オリンピアにあるAvonmore Placeという建物から名付けられており、本作のレコーディングが行われたブライアン所有の「スタジオ・ワン」所在地でもある。2010年作『Olympia』もこの場所で制作され、ブライアンの現在地をこの上なく簡潔に伝えている、というわけだ。『Avonmore』というタイトルが、ロキシー・ミュージックの最高到達点『Avalon』の綴りに似ていると考えるのは、少々穿ち過ぎだろうか。
Text:小池宏和
◎リリース情報
『アヴォンモア』
SICP-4370 2,400円(tax out.)
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