2015/01/05 16:01
結成30周年の締めくくり――そして新たな目標に向かって!
「光の楽団」を意味する日本を代表するサルサ・バンド、オルケスタ・デ・ラ・ルスがいつにも増して艶やかな姿でステージに登場した。ヴォーカルのノラが身体いっぱいに表現する人生の素晴らしさ。キレのいい4管のホーン・セクションの響き、そして聴く人の腰を直撃する灼熱のリズム・セクション。彼らが実践している“日本ラテン化計画”(会長:タモリ/笑)の一環として、今夜もカラッとした陽気で情熱的なショウを思う存分に満喫させてくれた。
彼らは1984年に結成。89年に発表した(日本では90年にリリース)デビュー・アルバムがアメリカ・ビルボード誌のラテン・チャートで11週間にわたって1位を獲得し、サルサの本場、ニューヨークのサルサ・フェスティバルでも大成功を収め、いきなりワールドワイドな人気を獲得した、まさに奇跡的なバンドなのだ。サルサ・ミュージックといえば70~80年代のニューヨークを中心に全盛を誇ったラテンのリズムが洪水のように押し寄せてくるダンス・ミュージック。週末に飛び切りのお洒落をした男女がクラブで官能的なリズムに合わせて踊り、愛の交歓も行ってきた、ストリートに根付いた音楽なのだ。
そんな庶民的な音楽を通じて、日本を明るく楽しい国にしていこうという彼らのコンセプトは、ステージの演出の至るところに溢れている。さまざまな問題が世界の平和に影を落としている今こそ、彼らのように国境を越えて感動を分かち合える音楽が必要なのだ。今までに訪れた国や地域は約25か所というグローバルな活動が、それを雄弁に物語っている。
加えて、この日のステージには超大物のサプライズ・ゲストが――。
先日リリースされた『アート・オブ・ポール・マッカートニー』(国内盤)や宇多田ヒカルのカヴァー集でデ・ラ・ルスと共演した井上陽水が何と! 飛び入りでステージに上がってきたのだ。どこかミステリアスで魅惑的な声と独特の節回しで陽水が歌うポールの‘I Will’は、サルサのリズムとの化学反応が素晴らしく、まさに音楽のケミストリーを体感させてくれた。これだけでも、この日のライヴに詰めかけたファンは狂喜乱舞の喜びよう。まさにデ・ラ・ルスの30周年を締めくくるのに花を添える、心憎いゲストの登場だった。
しかし、そんなデ・ラ・ルスも順風満帆の活動を続けてきたわけではない。初代リーダーのパーカッショニスト、大儀見元が脱退したり、リーダーを引き継いだカルロス菅野もバンドを去ったり、それぞれのソロ活動が活発になったりして、97年には1度解散しているのだ。だが、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、翌年主宰したチャリティー・イベント『ワールド・ピース・ミュージック・フェスティヴァル』で再結成し、現在も日本の誇る最高のサルサ・バンドとして活動を続けている。
でも、11人という大所帯のバンドゆえ、それぞれの事情が出てくることもしばしば。
実は、この日のライヴを最後に、ティンバレス奏者のゲンタが脱退した。彼は今年、沖縄の宮古島に移住し、新しい音楽シーンを作る目標に向かってさまざまな活動を始めている。そんな、みんなに愛されたゲンタを華やかに送り出すためのライヴでもあったのだ。まるで、デ・ラ・ルスの活動を傍らで観ていると、人生そのもののような気がしてくる。楽しいことも、悲しいことも、みんなで一緒に分かち合っていく。そんな“運命共同体”のような感覚が溢れ出ているライヴが彼らの真骨頂なのだ。
さて、30周年を越えて、ますます磨きがかかってきた彼らの演奏、そして脂が乗ってきたノラの歌声。彼らは来年もサルサという音楽を通じて、日本を明るく、そして美しく照らしてくれるに違いない。「光の楽団」という名前の如く――。
これからも彼らの活動には要注目。毎日を楽しく、陽気なものにしたいなら、デ・ラ・ルスの音楽は必需品だから。彼らの音楽は、彼らが歌うように“雲の隙間から射す光”なのだから。これからも日本を、いや世界を明るく照らしてもらいたい。彼らのステージを観ながら、僕はそんな気分で胸がいっぱいになった。
Photo: 上飯坂一
Text: 安斎明定(あんざい・あきさだ)編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。新たな目標に向かって、地域の人たちと独自のネットワークを築き、新しい音楽シーンを作ろうと奮闘しているゲンタに、今宵は『モエ・エ・シャンドン』で乾杯! 彼の将来に幸あれ!
◎公演概要
オルケスタ・デ・ラ・ルス
日時:2014年12月26日(金)
会場:ビルボードライブ東京
http://www.billboard-live.com
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