2014/11/16
2012年のメジャー・デビュー・アルバム『good kid, m.A.A.d city』では、そのタイトルどおりマッド・シティ(西海岸ギャングスタ・ラップの象徴的な街=コンプトン)に身を置く善良な少年として境遇を綴り、The Billboard 200で最高2位、R&B/ヒップホップ・チャートとラップ・チャートは共に1位という成績でセンセーションを巻き起こしたケンドリック・ラマー。来るニュー・アルバムからの先行シングルとされる「i」はその後MVも公開され、彼の新しいアクションがいよいよ現実味を帯びてきた。
アイズレー・ブラザーズの「That Lady」をサンプリングした「i」は、パーカッションの効いたファンキーかつアップテンポなトラックが小気味良く響くナンバーだ。その中でケンドリックは執拗に“俺は俺自身を愛する”というフックを投げ掛けて来るわけだが、このひたすらに肯定的なメッセージはケンドリックの新たな主張としても感動的だ。“この世界は拳銃と抗議サインに満ちたゲットーだ”“生きることは自殺するよりもマシなもんさ”といったコーラスに後押しされるケンドリックのポジティヴィティは、間違いなく彼の置かれた境遇から導き出されているからだ。
街に蔓延する暴力に怯え、かといってそんな街に生きる黒人の立場では、警察さえも味方にはなってはくれない。これまでのケンドリックが告発してきたのは、そんな四面楚歌の生活環境である。その上で彼が凄かったのは、敢えてヒップ・ホップ・ミュージックという土俵から逃げ出すことなく、才能と鍛え上げられたスキルをもってゲームに勝ち上がってきたことだった。だからこそ彼はコンプトンの重鎮であるドクター・ドレーをはじめ、多くのギャングスタ・ラップ・ミュージシャンたちの信頼も勝ち得てきたのである。
ギャングスタ・ラップとは一線を画しながら、ヒップ・ホップのゲームの中で勝ち上がるために、例えばビッグ・ショーンの「Control」に客演したときなどは、ビッグ・クリットやプシャ・T、エイサップ・ロッキーやタイラー・ザ・クリエイターらを名指しで挑発し大きな波紋を広げた。四面楚歌の環境から生まれたケンドリックのラップ表現は、その後も彼自身をストイックに追い込み続けるものになっていったのだ。真剣勝負を続けるケンドリックの姿勢は、「i」終盤の“俺は夕べ、オートマティックの武器を持って戦争に行った/誰も医療班を呼ぶんじゃないぞ/決着を付けるまで戦い続けてやる”といった、猛烈なラップにも表れている。
だからこそ、背水の陣から弾き出された“俺は俺を愛する”というフックは、抜き差しならない切迫感をもって胸に突き刺さる。ほとんど戦地に赴く兵士が残した遺書のような「i」は、次世代を担う子供たちへのメッセージとして締め括られている。音楽的にも斬新な境地を切り開いたこのナンバーは、ケンドリックが命懸けのポジティヴィティを掴み取った一曲になった。MVでも甘いムード漂うクラブの音を掻き消し、殺風景なブロック・パーティへと繰り出すケンドリックのストリート感覚が全開だったが、来るニュー・アルバムでは彼のどんな思いが届けられるのか、今から楽しみだ。
◎Kendrick Lamar - i (Official Video)
http://youtu.be/8aShfolR6w8
Text:小池宏和
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