2014/10/23 12:00
少し汗ばむほどの晴天に恵まれ京都・梅小路公園にて開催された、今年のくるり主催の『京都音楽博覧会』。末広がりの8回目を迎えた今回は、"音楽の万国博覧会"という初期の理念に今一度ピュアに立ち返ったような国際色豊かなラインナップで、アットホームな雰囲気の中、まさにくるりにしか実現不可能な"未知の音楽"たちとの出会いを演出してくれた。
開演前からステージにはサラーム海上とくるりの岸田繁(vo&g)が現れ、これから始まる多国籍なプログラムへの耳慣らしをするように、世界各国の最新の音楽家たちを公開ラジオ形式で紹介。その流れで最初に登場したのは、アルゼンチンからやってきたトミ・レブレロだ。バイオリン奏者とのデュオ形態で、バンドネオンを弾きながらのタンゴ調かと思えば、唐突にリズムマシンからブレイクビーツを鳴らし松尾芭蕉の名を連呼するラップ・チューンへ。さらには上半身裸になってチャランゴの弾き語りを熱く響かせるなど、彼のことを知らぬ観客をも微笑み混じりに巻き込み、たった2人で序盤から場内を沸かせた。
中東のレバノン発のヤスミン・ハムダンは、レッド・ツェッぺリンやカサビアン好きも即悩殺の先鋭的なアラビック・オルタナロックを白昼の京都の青空の下に展開。ジム・ジャームッシュ監督映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』で起用された『ハル』や、幻想的なシンセやヒップ・スカーフにチェーンまでも鳴り物に使ったバッキングを伴った、メロディの良さが際立つ名曲『ベイルート』など、アラブ音楽のパブリック・イメージを覆すロッキンでセクシーなステージは、痛快の一言だった。
一転して、昼下がりにリラックスしたアコースティック・セッション風に幕を開けたサム・リーは、英国のトラッドをベースにした音ながらも、アンサンブルの中に日本の琴や三味線、西アフリカの打楽器のカラバッシュなどを用いて、国境をゆるやかにかく乱。「僕は800年以上前の古い英国の音楽もやっている。もちろん僕は若いんだけどね」などとMCも挟みながら、英国トラッド古層の多様性を示すように多彩な音を展開してくれた。
ここで後半への橋渡し的に登場したのが、神戸発のtofubeats。『Don't Stop The Music』や『朝が来るまで終わる事の無いダンスを』といった代表曲に、自身が手掛けたくるりの『ロックンロール・ハネムーン』のリミックスもスムースに交えてメロウかつダンサブルに盛り上げ、続けざまにスペシャルな編成とステージングで海外組に負けぬ存在感を発揮したのは椎名林檎だ。
斉藤ネコを中心とする弦楽カルテットに、ピアノとアコーディオンを加えた楽団を従え浴衣姿で登場すると、タンゴ調の伴奏をバックに『いろはにほへと』を。「真ッ昼間からお目にかかれて光栄です」と彼女らしい挨拶を挟み、「ここでゲストシンガーを」と登場したのは、何と過去に2度出演して音博ではおなじみの石川さゆり! NHKの朝の連続テレビ小説の主題歌となった『カーネーション』や、椎名林檎が石川さゆりに楽曲提供した『名うての泥棒猫』『最果てが見たい』を共に聴かせるまさかのサプライズで場内を沸かせ、後半は『丸の内サディスティック』『歌舞伎町の女王』と初期のキラーチューンを連発。特筆すべきは最新シングルの『NIPPON』を経てラストに歌われた『ありあまる富』で、尋常ではない凄みをもって響いていた。
そして、夕刻が近付き涼しい風も吹いてきたタイミングで登場したのが、英国が誇る無国籍ミニマル・チェンバー楽団のペンギン・カフェ。先代のペンギン・カフェ・オーケストラの代表曲である『テレフォン・アンド・ラバー・バンド』から最新作『ザ・レッド・ブック』収録曲までを披露しつつ、MCではリーダーのアーサーが「ペンギン・カフェ~は父親が京都に住んでいたときに着想されたものだから、家に帰ってきたようなもの」と語り観客との距離を縮める。ミニマル音楽が基調とは言え、実は彼らはスウェードのメンバーやゴリラズ、デーモン・アルバーンのサポートなどで活躍する才人集団だけに、若いロック寄りのファンを踊らせるツボを心得ているのは当然か。後半は世界の音楽のエッセンスが溶け込んだ優雅なチェンバー・ミュージックで、1万人以上の観衆が集う京都の夕刻に幸福なダンスタイムをもたらしてくれた。
そして、トリを飾るくるりは、ツそして、トリを飾るくるりは、ドラム、パーカッションに2人のコーラス隊、高田漣のペダルスティールやキーボード、ユーフォニウムを含む10人編成の大所帯で登場。序盤は今回の音博のラインナップと同様に、中東やヨーロッパ周縁の音楽の要素も自由に盛り込んで新境地を示した最新アルバム『THE PIER』から、めくるめく曲展開でダンサブルに聴く者を高揚させる新たなアンセム『Liberty&Gravity』をはじめとした楽曲を次々とシンフォニックに再現。さらには、クラシカルなアレンジとメロディメイカーとしての非凡さが凝縮された名曲『JUBILEE』など、暮れゆく時間に沿うようにバンドの歴史をさかのぼり、本編ラストには昨年末に再び東京へと移住したことなどを報告しつつ、「音博ではあまりやらない曲を」と、彼らのメジャーデビュー曲である『東京』を披露。
アンコールでは、故・佐久間正英とレイハラカミの両者に捧げられた『There is(always light)』、そして最後の最後はメンバー3人だけでステージに再登場し、「旅を続けて、またここに戻ってこれたらと思います」と、アイリッシュ・トラッド的な叙情性も強く出た名曲『宿はなし』を。彼らでしか成しえないクリエイションが全開の会心作を、ライブという場でもしっかりと血肉化してみせた素晴らしいセットで、今年の『京都音楽博覧会』は幕を閉じた。
text:吉本秀純
協力:夢番地
【京都音楽博覧会2014】
2014年9月21日(日)@京都 梅小路公園 芝生広場
出演アーティスト:くるり(from 京都)/ペンギン・カフェ(from イギリス)/トミ・レブレロ(from アルゼンチン)/サム・リー(from イギリス)/ヤスミン・ハムダン(from レバノン)/椎名林檎(from 福岡)/tofubeats(from 神戸)/サラーム海上(from 高崎)
http://kyotoonpaku.net/2014/
◎今後のライブ情報
くるりの冬のライブ・ツアー
「THE PIER」リリース記念・くるりワンマンライブツアー2014「金の玉、ふたつ」
2014/12/02 (火) 大阪:オリックス劇場
2014/12/04 (木) 大阪:心斎橋JANUS
2014/12/05 (金) 滋賀:滋賀B-FLAT
2014/12/07 (日) 奈良:奈良ネバーランド
2014/12/08 (月) 和歌山:和歌山GATE
2014/12/10 (水) 兵庫:姫路Beta
2014/12/11 (木) 京都:京都KBSホール
関西公演の情報は夢番地のホームページ、またはくるりのオフィシャルサイトをチェック
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